櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「いいか、お前はラヴェンデルに向かえ。余裕があればローゼ地区までカバーしろ」
「オーケー。ウィズは?」
「俺は王宮前からリーリエ地区までを受け持つ。オーリングに声をかけられれば声をかけてくるが...」
「...無理そうなのか?」
「ああ...だが、王宮はあいつらに任せておけばどうにかなる。俺達は全力でやつらをねじ伏せるだけだ」
「あーあ!!ジンノ副隊長たちがいてくれたらこんな事態も一瞬で片付いたのになあ!!」
そう言いながらも、ラウルとウィズの顔は一気に戦闘モードに切り替わる。
「...行くぞ」
「ああ!!」
そして二人はそれぞれの持ち場に向け走り出した。
―――
その頃、ラヴェンデル地区正門前
先に駆けつけていた衛兵たちが突如現れた冥界の使者たちに応戦していた。
「何なんだこいつら!!物理攻撃が利かない!」
「何で切っても動いてるんだよ!」
冥界の使者たちは黒いローブに身を包み、そこから覗く顔手足は真っ黒で鼻も口も表情も何もない。
以前シルベスターを襲った者達と同じだった。
どうやら彼らは闇の魔力に似たものを使うらしく、物理攻撃は効かず対抗できるのは魔法を使えるものだけ。
「魔法が使えぬものは下がれ!!国民を避難させることだけに尽力するのだ!」
現状を素早く把握し、特殊部隊の騎士がいなくとも、指示を出し最善の策をとる。
(流石...フェルダンの騎士たちだ...)
あちらこちら、視界に入るいたるところで戦闘が行われる中、ピエロの仮面をかぶった男はするすると人波を抜け、王宮へと向かう。
「待て、貴様!!どこへ行く!!」
そんピエロに立ち向かってくる騎士もいたようで。
腰にかけた剣に手をかけ、襲い掛かってきた。
「まあそうだよね、その判断は正しいよ」
でも
ピエロが振り上げた脚はその騎士の腹にめり込み、その体は何十メートルも飛ばされる。
明らかにその脚には魔力が宿り何倍にも力を増幅させているのは明白だった。
「俺に敵うかどうか考えて行動しな、弱い奴は何にもできない。無駄死にするだけだよ」
ピエロはまた歩いていく。
(...弱い奴は何にもできない、か......)
そうだ
弱けりゃ何にも守れない。
何にもできない。
だから
(...演じろ、狂喜のピエロを...それが俺のできる、最後のあがきだ)
悲しき道化は夜空を仰ぐ。
そして一人黒く染まった道を王宮へ向けて、飄々と歩いて行った、