櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ




「いつかとる命なら今ここで、お前の手で奪え!それで幕引きにするんだ!!」



 
「...お前は馬鹿なのか?アイゼンやオーリングがこの場に居るのにこの俺がそんなへまを犯すわけないだろ?...安心しろ、そんなに死に急がなくてもお前を王座から引きずり落とすプランは考えてある」




 シルベスターの狂った発言を鼻で笑うグロル。



 だがシルベスターは本気だった。



「......アイゼン、オーリング...教会から出ていけ」



「えっ何を!?」



「聞いてただろ?グロルはお前たちが邪魔らしい。だから出ていけ」



 突然の指示にオーリングは驚愕の表情。



 しかしアイゼンは無言でシルベスターと目を合わせると諦めたように目を閉じ1つだけ溜息をついた。



「...はあ...オーリング行くぞ」



「!?隊長、正気ですか!?」



「当たり前だ。国王の命令だぞ、従え」



「そんな......!?」




 そのままアイゼンはオーリングの首根っこを掴み、教会の外に向かって歩き始めた。



 当然、オーリングに至ってはひとかけらも納得していない。






 教会の外に引っ張り出されたオーリングはアイゼンに掴み掛った。



「何で止めるんですか、隊長!!私たちは特殊部隊ですよ!!王を守らなくてどうするんです!!!」



 しかしアイゼンもまた黙っていない。



「そうだとも、俺達は特殊部隊だ。特殊部隊はあくまでも王族に仕えなければならない。王族の命令は絶対だ。それがいかなる命令でも、だ」



「...ッ!!でもっ」



「オーリング!いい加減にしろ!」




 珍しくアイゼンが怒鳴った。




「いいか?国王が俺達を教会から出させたのはお前を助ける為でもあったんだ!!」




 グロルの王国乗っ取りに邪魔なのはなにもシルベスターとシェイラだけではない。



 暗殺事件を逃れ分家の当主となっているオーリングとアポロもまた狙われる対象なのだ。



「国王陛下はグロルの描いたこの暗殺劇を自分で終わらせようとしている。それがどれだけ大きな決断か、分からない訳じゃないだろう。だから、邪魔をするな」



 それによく見てみろ。



 アイゼンのその言葉に、オーリングは自分の背後を窺う。



 そこには戦場になっている王都の街が広がっていた。



「...これは...!」



「我々は王に国を任せられた、国民を守れと言われたんだ。ウィズたちが踏ん張っている、俺達も向かうぞ」



 理由は分かっても、やはり納得いかないのかオーリングは悔しそうに顔を歪ませる。



 アイゼンは困ったように笑い、オーリングの頭を二回ほどポンポンとたたいた。



「安心しろ、俺だって王は守りたい。死なせないさ。特殊部隊は何も俺達だけじゃないだろう」



「え、...」



 戦いの始まっている王都へ向かう中、アイゼンは笑う。



「ハハッ...何だかんだ言いつつも『アイツ』は根っからの騎士なんだ、任せておけばいい」



 二人は名残惜しそうにしながらも、闇にまみれて戦う王都の街に繰り出す。






 ちょうどそれと入れ替わりになるように、教会へ向かう影があった。






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