櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◇
────場所は変わり、特殊部隊闘技場。
この日の午前中、ここでは軍に入りたい希望者たちの一般試験が行われていた。
この世界において、魔力を持って生まれてくるヒトの割合はわずか全体の一割にも満たない。
その中でも戦闘につかえるだけの魔力を持っている者は数少なく
その為、軍の最高峰である特殊部隊を目指せる魔法使いは数が限られており、ほとんどの魔法使いは前線で戦う騎士として一般入軍試験を受けるのだ。
「今回もあまりぱっとする騎士はおりませんなあ」
体は大きく、白髪混じりのヒゲを口元にたんまりと蓄えた男が、大きくため息をつく。
老いを感じさせないその男はフェルダン王国現国王シルベスター・フェルダンの第一補佐官リーベルだ。
「そんなこと言うなよ、相変わらずお前は厳しいな」
苦笑交じりにそう返すのは、その国王シルベスター。
彼らは闘技場内を唯一見ることが出来る観覧席から、中の様子をうかがっていた。
シルベスターは国の代表としてここにいるのだが、リーベルは少し違う。
彼は、元特殊部隊の隊長であり、現在の軍の総帥つまりトップなのだ。
多くの騎士たちを見てきたその肥えた目で、新人騎士たちを見定める。
が、今回はあまりお気に召す人材はなかったようだ。
「何そんなに落ち込んでるんですか?リーベルさん」
そんな二人の元に顔を出したのはアルマ・クラウド。
ジンノの補佐官だ。
ジンノがルミアの元に言っている間、暇を持て余してここにやって来たというところだろう。
「おう、アルマじゃないか。ジンノはどうした?」
「実家に帰ってますよ。最近は仕事も早く終わらせてくれるし、私も暇なんです
今年はどうですか?...貴方の様子を見てればある程度は予想できますけど」
「ああ...ぱっとせん。お前やエルヴィスたちの代から全くだな」
補佐官であるものはほどんどが軍に所属している。
主を一番近くで守る役目もあるからである。
まあ、ジンノの補佐官は守るというよりも事務的な処理をすることが多いが。
アルマの同期であり、従兄であり、絶対の信頼を置いているエルヴィス・クラウド。
彼はオーリングの補佐官を務めている。
普段はアルマと行動を共にすることが多い彼は、現在各地の村の復興に奔走しているオーリングの代わりに、実務に追われているためここには来ていなかった。