櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ





「いい加減芝居はやめたらどうだ、セレシェイラ」




 ジンノの声はまっすぐに立ち尽くす彼の元へ届く。



 アネルマに洗脳され、自我を失ったであろう王子の元へと。



「芝居?何を言っているのジンノ、私の力を見くびらないで」



 アネルマは気丈に声を張る。



 芝居のはずがない。



 これまでシェイラはアネルマの思い通りに動き、言葉を紡いだ。



 キスをし、体を重ね、結婚までしたのだ。



 過去に幾人も同じように魔法をかけて洗脳してきたが、誰一人それを破った人間などいない。



(大丈夫、大丈夫......)



 そう何度も自分に言い聞かせる。



 だが、明らかな自分たちの劣勢に動揺を隠せずにいた。



「アネルマ、お前とは魔法学校以来だったか
 お前の力はルミアから聞いている、特殊部隊に匹敵する実力だったそうだな」



 アネルマは魔法学校で、ルミアと同級生だった。



 美しく、実力もあり、一部では特殊部隊にどうかと話が上がるほどで



 その噂はルミアを伝い、ジンノの耳まで届いていた。



 だが、彼女は特殊部隊に入隊することはなかった。 



「今も力が衰えていなければ、間違いなく洗脳できているだろう」



「衰えてなんてないわ。当たり前でしょ。私の魔法は完璧、彼は私のものよ」



 セレシェラの腕をギュッと掴む。



「まあ、そうだとしても、お前にその男の洗脳は無理だな」



 ジンノは言う。それは不可能なのだと。



「何を根拠に、そんな事を...」



「根拠は大いにある。それはやつが、セレシェイラが間違いなく、神の血を引く伝説の王子だからだ」



・・・・・



しばしの静寂があたりを支配する。



 ジンノの一言を聞いたアネルマそして、グロルまでもが「うそ...」と目を丸くしていた。



「その様子を見ると、やっぱり信じていなかったんだな」



 〈偽りの王〉



 そう皆に口にされ、魔法の使えない出来そこないの王族と蔑まされてきた王子は、やはり敵にもそう認識されていたらしい。



 彼は間違いなく、この世界に存在するありとあらゆる魔法を扱える、神の血を引く伝説の王子



ジンノは目の前でそれを見て確信した。



そして同時に思い知らされる



彼はジンノが知っている昔の彼ではない



 人の何倍も臆病で、怖がりで、逃げてばかりの弱い少年ではなく、



 人の上に立つ王となるべき人なのだ。
 


< 147 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop