櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
ジンノの言葉を聞き、アネルマが恐る恐るシェイラの顔を見上げる。
「...ねえ、シェイラ...冗談よね?ジンノが言っていることは嘘なんでしょ?......ねえ答えてよ」
すると、シェイラの黄金色の瞳がゆっくりとアネルマへと向いた。
自分の方を向いてくれたシェイラの頬へ、アネルマは手を伸ばす。
離れてしまいそうなそれを繋ぎとめようとするかのように。
「シェイラ...言って。愛していると言って...お願い」
まるで懇願するように、縋るように、アネルマは声を絞り出した。
本当は利用するだけだった。
父のために利用するだけ。
全てが終われば、ほかの王族と同じように殺す。
草するはずだったのに。
そんな男をアネルマは、愛してしまった。
今まで幾多の男達を手玉に取り、いいように洗脳、コントロールして利用してきたが、こんなことは初めてだった。
洗脳によってアネルマが欲しい言葉を言わせることは簡単。
だが、今回は、シェイラにだけは彼の言葉で「愛している」と言って欲しいと思ってしまったのだ。
洗脳をかけたりかけなかったり、彼の思考が混乱するようにして、アネルマはシェイラからのその言葉を手に入れた。
キスをし、体を重ね、思いを通わす。
そうやって、心を通じ合わせた恋人が行うことを何度も繰り返した。
グロルの計画が成功した暁には、シェイラと2人だけでどこか遠くに、グロルの手の届かない遠くに逃げようとまで考えていたのに。
声を絞り出し、懇願する彼女にかけられた言葉は、望んだものと違うものだった。
「ごめんね、アネルマ」
たった一言
そのたった一言で、すべてを理解する
これまでの何もかもが偽りだったのだと
言葉も
心も、体も
愛も
何一つ本物は存在しなかったのだ
その瞬間にアネルマの世界は
ガラガラと音を立てて崩れていった