櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
アネルマがからめていた手からそっと抜け出す。
自然と距離をとるシェイラ。
アネルマは行き場のなくなった手で顔を覆い、その場に崩れ落ちるように座り込む。
その姿を見てネロは思った。
こんなにも弱い人だったかと。
いつも強気で、グロルの娘らしく策略と力ですべてを手に入れてきた。
しかし、いつの間にか依存してしまったシェイラを失った途端、支えがなくなった心は跡形もなくボロボロになってしまう。
そこに、以前までのアネルマはいなかった。
「ジンノまさかお前が来てくれるとは思わなかった。約束はちゃんと守っているんだろうな?」
「ふん、言われなくともちゃんとやっている。無駄口叩く暇があったら自分の心配でもしてろ」
明らかに先程までと様子が違うシェイラがジンノと向き合い、言い合いを始めていた。
元からあまり仲が良くないふたり。
だが、どこかでお互いのことを認めていたのだろう。
だからこういう時、誰よりも信用し、任せられる。
王族と騎士
立場は大きく違うが、二人の関係はその場にいたネロやアポロの目には美しく映っていた。
一方、グロルはと言うと、セレシェイラのまさかの行動に驚き、同時に憎らしげに睨みをきかせている。
その様子を目の端でとらえたジンノは不敵な笑を浮かべた。
「グロル、お前の計画もここまでだ。言っただろう?王家フェルダンをなめるなと。お前が今回の計画を実行に移すそれよりも前からこのセレシェイラという男は動き出していた。完全にお前達の負けだ」
「...ックソ......」
苦虫を噛み潰したような苦しげな表情。
まさかこんな展開になるとは思いもしなかったのだろう。
グロル本人、これまで長期の計画を練りそれを実行する為に相当頭を悩ませたはず。
今回の計画で、すべて終わる。
全てが手に入ると思っていた。
しかし、今回の最大の誤算、死んだと思っていたセレシェイラが現れたことがすべてを狂わせた。
追放したはずのジンノが戻り、おまけに失踪していた彼の両親までも登場する。
そして自分達に従うネロは寝返り、極めつけはセレシェイラによるアネルマの切り崩しだ。
あの『石』も最早役には立たないだろう。
闇の魔法使いジンノ、そしてその両親リンドヴルム、シュネシファーはもちろんのこと
特殊部隊の者達も対策法を知っている。
何より、ネロが手に持つ武器
それは『神器』と呼ばれるもので
世界に数個しか存在しない、神の力の宿る武器だ。
神器は人を選ぶため、誰でも手にすることは出来ない。
中でも、ネロが持つ神器“トリシューラ”は、数百年に渡り所有者が現れなかった最古の神器。
破壊の神の力が宿るそれは、世界に存在するもの全てを破壊する力を持つ。
勿論、『石』も当然のように破壊する。
だからこそ、ネロをこちら側に置いておきたかったのだ。
だが、その計画も虚しく、ネロはジンノの隣に立っている。
もう、手の打ちようがない
誰の目から見ても明らかだった