櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
いつからだろうか
彼が変わってしまったのは。
笑わなくなった。
ただでさえ口数が少ないのに、全く喋らなくなった。
今まではフランクに話せていたのに、急によそよそしくなった。
そして、彼の心のあったはずの熱が消えてしまった
なにを考えているのか全く分からない
その姿はまるで心を失ってしまった人形の様。
何故そうなってしまったのかは分からない。
ただシルベスターがどう頑張っても彼を元のようにすることはできなかった。
それどころかグロル自身がシルベスターを避けるようになったのだ。
何かに怯えるように。
『グロル!!!』
『......』
何度その背に声をかけたことか。
だが結局彼を救えないまま今ここにいる。
ずっとずっと、シルベスターは後悔していた。
だからこの惨劇を、自分の命1つで決着をつけられるのであればと、グロルの手で殺されることを願った。
しかし
(うちの騎士達は、俺が思っていたよりもずっと、優秀だったらしい...)
優秀過ぎる騎士たちに支えられ、のこのこと生き残ってしまったようだ。
(まったく...優秀過ぎるってのも考えもんだな)
シルベスターはゆっくりと立ち上がる。
そして呆然と立ち尽くすグロルの元へ歩みを進めた。
「グロル...」
「...何だ」
「お前を救えなかったのは俺の責任だ。死んでもいいと思ってた
だが、みっともなく生き残ってしまったよ」
「...今からでも遅くない、すぐに殺してやろうか」
皮肉めいたグロルの発言にシルベスターは苦笑い。
だがそれを責めることなくシルベスターは話し続ける。
「ははっお願いしたいところだがな、せっかく生き残ったんだ。お前と話したいこともたくさんある。お前はどうだ?」
そう尋ねると、グロルは一つだけ溜息をついて教会の天井を仰ぐ。
「...ふう...何だかな、気が抜けてしまった...」
ぼんやりと見上げる天井には、聖母と天使たちが微笑む。
それを見ているとどこか心が洗われていくようで
(...俺は...一体何をしたかったんだろうか......)
グロルの顔はまるで憑き物が落ちたように穏やかだった。