櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「ラウル、よく耐えたね」
「イーリスさん!!」
獣達を従えてやって来たのは、紛れもなくイーリス。
ルミアとジンノと共に、王都を出ていったはずの彼だった。
相変わらずの、緊張感を一切顔に出さない穏やかな笑みを浮かべ、イーリスはラウルの隣に立つ。
「よくもまあ、俺達がいない数ヶ月でこんな事になったもんだ」
「あう......ごめんなさい...」
イーリスは特殊部隊の中でも戦闘経験豊富な兄貴的存在。ラウル自身、兄貴と慕っていた。
そんなイーリスの一言に落ち込むラウル。
「ははっ!お前達のことじゃないよ。俺達が出ていったからって、勝てると思い込んだあいつらが馬鹿だって言っているんだ」
「なっ!?何だと!!!もう一度言ってみろ!」
挑発的な発言に、グロルの部下が怒鳴る。
穏やかな、だけど、その瞳の奥に静かな怒りを孕んだ笑みがその部下へと向けられた。
「...他の力に頼り、己の力を過信し、判断を誤った愚かな馬鹿共だと言っている」
イーリスはその大きな体を包んだ深紅のマントを外し、ラウルに渡した。
ラウルは、その行動にハッとする。
(やるんだ...今、あれを!)
そしてごくりと息をのんだ。
「先程、お前は言ったな。特殊部隊と言えど本当の『化け物』には勝てないと
では聞くが、貴様......本当の『化け物』を見たことがあるか」
「はっ何を今更、目の前に冥界の使者がいるのが見えないのか!」
イーリスの気迫に押され、怯えながらもそう叫ぶが最早虚勢にしか聞こえない
イーリスは鼻で笑う。
「冥界の使者など、『化け物』とは呼ばん
本当の『バケモノ』......我らがそれを、二度と馬鹿な真似ができないように、貴様らの目に刻み付けてやる」