櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
〈エレキ〉ショック・ハザード
その魔法を唱えた途端、ラウルを中心に蜘蛛の巣のごとく、四方八方に電流が走る。
そしてその電流は、極めて正確に、王都各地に散らばっていた『石』を持つグロルの部下の心臓めがけて飛んでいった。
――――
西のリーリエ地区
そこですぐに異変に気が付いたのは、冥界の使者とグロルの部下たちの相手をしていたウィズだった。
(電撃!?)
〈フローラ〉ドルン・クロイツ
ウィズによって瞬時に放たれた魔法により、ウィズ本人と辺りに居た衛兵たちにイバラの防護壁が作られる。
しかしその電撃はグロルの部下にのみ当てられ、感電した彼らは白目を剝いて倒れてしまった。
「これは...!!」
衛兵たちが目を瞠る。
それがラウルの魔法の力だという事はすぐにわかった。
これは広範囲にいる多数の相手を特異的に感電死させる魔法。
しかしコントロールを誤れば一般の人々まで傷つけてしまう。
それを恐れて今まではウィズが一緒に居る時にしか、この魔法を使ったことはなかった。
ウィズは草木の魔力を操る。
木々を始め、植物は電気を通さない。その特性を生かし、広範囲の精密なコントロールが得意なウィズが、先に一般人や攻撃をしてはならない相手にだけ防護壁を作るのだ。
そして安心して攻撃できる状態になってからこの魔法を使う。
だが今回は。
人手が足りない今、ラウルは一人でこれを行ったに違いない。
(ラウル!!よくやった...!)
ウィズは心の中で、大役をやり遂げたラウルに賛辞を送った。
「さて、こちらも一掃していこうか」
そう言うと、ウィズは懐から一冊の本を出す。
小さく何かを唱えると本は宙に浮かび、ひとりでに開きページをめくり始めた。
そしてパラパラとめくられていたものが、あるページで止まる。
〈フローラ・ダーク〉ヘルブリューム
その魔法が唱えられと、本のそのページから黒々とした闇が噴出した。
それは冥界の使者たちの体にツタのように絡みつくと、心臓付近に黒いつぼみを作る
そのつぼみはみるみるうちに膨らみ、やがて真っ黒な花を咲かせた。
その瞬間、冥界の使者は花だけを残し嘘のように消えてしまう。
その場にいた衛兵たちは、見たこともないその魔法に目を奪われていた。
「ウィズ様、これは!!」
「その黒い花には触るなよ。命を吸われる」
この世に存在するすべての魔法を知り尽くしているウィズ。
彼は創作魔法を得意としていた。
彼が手にしている本の中には、彼が造った彼だけしか知らない魔法が数多く記載されているのだ。
その上、造られた魔法のほとんどが二種類以上の魔力を組み合わせた重複魔法という厄介さ。
彼を敵に回した相手は、ウィズから繰り出される奇奇怪怪な技に翻弄され、何の抵抗をすることもできずにやられてしまう。
そして、今回も。
彼のかけていた眼鏡が星明りできらりと光る。
その場に無数の黒い花を残し、ウィズは何ともなかったように次の場所に向かい歩みを進めたのだった。