櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ





 そこにいたものはみんな目を見開き、驚いた。



 当然だろう。



 見ず知らずの子供が、大人それも特殊部隊の騎士相手に喧嘩を売ったのだから。



 喧嘩を売られた相手も黙っちゃいない。



 同じようにジンノに掴み掛ったのだが、その腕を逆につかみひねられ今度は蹴り飛ばされた。



 上から見下ろすその冷たく闇をはらむ眼は今のそれと変わりない。



 見るものすべてを威圧する恐ろしいものだった。



 蹴り飛ばされた男もそう思ったのだろう。



 こいつは只者じゃあないと。



 すぐに起き上り、魔法を次々と使い始める。



 彼も特殊部隊の一員だ。強力なものばかりが襲い来るのだが、ジンノはやはりすごかった。



 彼らが目を剝くほど強力な闇の魔法を駆使し、おまけに特殊部隊に伝わる体術までも習得していたのだ。



 化け物じみたその強さにそれを見ていた騎士たちも流石に焦りだす。



 一人では相手ができないと踏んだ彼らは複数で相手をし始めた。



 しかしジンノも引けを取らない。



 素早い動ぎでその全てと対峙していく。



 しかし、アイゼンやリーベルも加わり流石に押され始めてきた時。



 彼女は現れた。



『兄さん!!』



 制止を聞かず扉をぶち破って入って来たのはまだ幼いルミア。



 そして兄と共に戦い始めた。



魔力を開放した彼女は幼いながらも、ジンノと同じく異常だった。



 闘技場全体が一瞬で雪景色に変わり、ルミアとジンノの魔力に耐え切れなくなった魔導壁が音を立てて崩れ落ちる。



 魔力が漏れその巨大さに王宮がパニックに。



 けれど、二人は魔力を開放し続ける。



 ジンノとルミア。



 そのコンビネーションは神がかっていた。



 全くすきがない。



 どんなに攻撃をしようと、必ず一方が防ぎもう一方が攻撃。



 最早それは特殊部隊の騎士と同等の域、いやそれ以上の域に達しているとさえ思えた。



 当時隊長だったリーベルやアイゼンはその美しいほどの戦いに、動きを止めて見惚れた。



 こんな子たちがこの国にいたなんて。



 その存在に驚愕したのだ。



 その後も数十分戦いは続き、やって来た国王が止めろというまで終わらなかった。



 魔力の強さにほとんどの人間は近づく事が出来なかった為、状況を知るものは数少なく。



 ジンノとルミア、そして特殊部隊の騎士たちの喧嘩は彼らのみが知る“伝説”となったのだった。




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