櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ




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 東のローゼ地区



 ここはフェルダン=ルシャ王都で唯一の繁華街。



 真夜中の今の時間帯でも国民が多く、冥界の使者たちの出現によって混乱に陥っていた。



 逃げ惑う国民。



「うわあああーー!!」



「暴れんなてめえら!!守りずれーだろーが!」



 そんな彼らに、アイゼンはほとほと困りはてていた。



 敵を倒したいのに暴れる国民達が邪魔で邪魔でたまらない。



 イライラが募りに募る。



 最近酒とたばこを止めたので、余計にイライラしてしまうのだ。



(邪魔だ...!邪魔過ぎる!こいつらまとめて叩っ切ってやろうか!!)



 と、危ないことまで考えるほど。



 すると。



 不意にアイゼンの視界がかすみ始めた。



「あ!?何じゃこりゃ!!」



 別にアイゼンの体に異変が出たわけではない。



 濃霧、『きり』だ。それが突然発生し、ローゼ地区全体を占めるように広がっていた。



 今まで騒ぎまくっていた国民も何事かと立ち止まる。



人々の混乱と熱を吸い取るように、そのきりは次第に深く、深くなっていく。



そしてアイゼンは気がついた。



これが自然現象ではないことに。



「アイゼン隊長、これは一体...」



 突然の現象に困惑する衛兵たち。



 そんな彼らにアイゼンは言う。



「落ち着け落ち着け、慌てることはない。
 これは“目”だ...視力のないあいつが敵味方を正確に判断するためのな。てめえら!死にたくなけりゃ動くんじゃねえ!一瞬だ...一瞬で勝負はつくぞ」



 アイゼンがニヤリと笑った。






 隣の人物も定かに見えなくなるほどの濃霧



その中を音を立てずに、ひっそりと歩く男が1人。



彼の両手には二本の刀。



目深にかぶられたフードで表情は見えず、かろうじて見える口元がゆっくりと呪文を唱える。




〈アクア〉キラー・ネーベル



 
 その瞬間、辺りに充満していた濃い霧は一つ残らず斬撃へ。



 それは冥界の使者のみを的確に、殲滅していく。それはもう、目で見るよりも正確に。



 霧が晴れた時、その場に立っていたのは満足げに笑うアイゼンと、呆然とする衛兵や国民と





「遅いぞ、やっと帰って来たか」



「厳しいな......急いだんすよ、これでも」





 何事もなかったかのようにそこにいるリュカだった。



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