櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「リュカ様!」
「よくぞお帰りに!!」
「流石です!!」
衛兵たちがこぞってリュカの元に集まる。
視力がない代わりに耳がいいリュカは顔をしかめた。
「し静かにしてくれ、騒ぐな」
「そうだぞ!どけどけお前ら、ほら仕事しろ仕事」
アイゼンがそう言いながら追っ払う。
「それにしても相変わらずすごいなお前。どんな仕組みになってんだか」
彼が言っているのはリュカの魔法の代名詞ともいわれる、先ほどの『霧』のことだ。
リュカは水の魔力を扱う魔法使い。
視力をなくした彼は独自の戦闘方法を身に付けた。
それがこの『霧』。
リュカが前線に出向くとき、必ず戦場を霧が支配する。
敵の視界を奪う為ではない。
リュカの魔力で作られたその霧は、アイゼンが言ったようにリュカの目の代わりをする。
敵か味方か
その人数、正確な位置
魔法使いかそうでないか
その全てを目で見るよりも確かに感じ取る。
そしてそれが晴れた時、すべてが終わっているのだ。
霧と共に現れ、一つ残らず葬り去っていく盲目の騎士
彼によっていくつの敵が潰されてきたか。
それはアイゼンが一目置くほどだった。
「いやあ、リュカがきてくれて助かった。これだけ人がいて、入り組んだ場所だと俺の力が発揮できん」
「まあそうですね。あんたが本気出せばこの街が半壊する。俺がきて正解だ」
新たに出てき始めた冥界の使者たちを刀で薙ぎ払いながらリュカが答える。
「しかし...いくら俺達がこいつらを切り続けても大本を根絶しないとどうにもならないな」
地面を覆う真っ黒な闇。
冥界の扉が開いたままになっている限り、切っても切っても冥界の使者たちは現れる。
扉を閉じなければ。
「ああ、分かってるさ。今あの二人が奮闘してる」
「あの二人?」
「...ジンノ達の両親さ。今王宮前広場で術式を行っている最中だろう」
何でもそうだが、開くの簡単だが閉じることは難しい。
今回の冥界の扉もそうで、ネロひとりで行った開く魔法も十分難易度が高いのだが、閉じる魔法はそれの比にならないくらい難しい。
最低でもネロと同じかそれ以上の力を持つ魔法使いが二人以上いなければならない。
元々、グロルは閉じないつもりだったのだろう。
リンドヴルムとシュネシファーが戻ってこなければ不可能だったに違いない。
その二人でもかなり時間がかかっているようだが。
「二人がその術に集中できるよう、オーリングが二人を護衛している。じきに閉じるさ。俺たちはそれまでこいつらの殲滅を続けるだけだ
それよりルミア達は?一緒に来たんだろう」
「イーリスはラヴェンデルに、ルミはまっすぐ教会に向かった」
「そうか、ならもうそろそろ決着がつくな。ああー早く酒飲みてえ!!」
もうすでに事件が終わったあと酒を飲むことを考えているアイゼンに対し、リュカはまだ気が抜けないのか心配そうに教会の方へと視線を向ける。
(ルミ...頑張れよ...)
リュカの想いが夜風に乗ってフェルダンの闇に消えていった。