櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
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聖母マリアが微笑む教会内。
そこに突如、何の前触れもなく降り立った白髪の少女に、皆の視線が集まる。
ジンノはあり得ないものを見るように驚き、
シェイラは心を魅了されたかのように彼女を見つめ
アネルマは自分とは正反対の真っ白なそれを睨みつける
はじめに動いたのはジンノだった。
「ルミア...お前なのか?何故ここに...」
アイルドールに閉じ込めてきたはずの最愛の妹に、ゆっくりと近づく。
『この戦いで死ぬ』という占いをうけ、それを回避するために、傷付けて置いてきた。
一体どうやってここに来たのか、何故死ぬと分かっていてやって来たのか。
ただひとつ言えることは、彼女がここにいるという事
そして、占いが本当であれば
彼女は間違いなくここで『死ぬ』ということだけ。
何としてでもここから逃がさなければ。
そう思い、ジンノはルミアに手を伸ばす。
しかし
ルミアの深い藍色の瞳がジンノを捕らえた瞬間
ジンノの体が嘘のように固まった。
「っ!!? う、あ...」
口も思うように動かせない。
まるで蜘蛛の糸にからめとられたかの如く動かなくなったジンノを、ルミアはじっと見つめる。
その目はとてもつめたく冷ややかで、ぞっとするほど恐ろしい。
とてもルミアのものとは思えないその目にジンノすらも背筋を凍らせた。
ルミアの指が、固まったままのジンノの頬をなぞる。
それはもう、酔ってしまいそうなほど妖艶に。
「...貴方は甘い、甘すぎる」
「ッ!!」
その台詞はジンノがルミアに言った一言。
「私がここに現れた時点ですぐに動き出せばよかった、あの時と同じように。だけど貴方はそうしなかった。貴方はいつも、私に甘い、どうしようもないほど。だからほら、動きも魔法も封じられた...」
アイルドールで自分が言われた様に言葉を重ねるルミア。
その台詞が、言葉の一言一言が、ジンノの首を絞める。
「...主を守れぬ騎士に、生きる資格はない。その先に『死』があるとしても何も後悔しないわ」
だから
「邪魔をしないで」
その一言はジンノを絶望させるのに十分だった。