櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
がくりと力の抜けたジンノの体をルミアはその細腕で支える。
「おやすみ、兄さん」
そっと体を横たわらせ、眠るジンノの額にキスをする。
見れば、傷だらけになった体は癒え始めている。
これも先の魔法の効果。
それを確認するとルミアはそっと立ち上がった。
長い白髪がさらりと揺れる
その一部始終を見ていたシェイラは状況が全く飲み込めずにいた。
一体誰がこの状況を予測出来だろうか。
フェルダン最強の騎士が
魔王と呼ばれた黒い騎士が、その最愛の妹の手で戦闘から離脱させられた。
久しぶりにルミアを目の前にしたことで、喜ぶ自分もいるがその逆で心から喜べない自分もいることにシェイラは困惑する。
そこに居るのは確かに何度も夢見たルミア本人に変わりない
それなのに
(どうして...こんなにも胸のざわつきが止まらない...?)
困惑しながらも、ただ一つ分かるのは、きっとこれがジンノの意図したことではなかったのだと言うことだけ。
ルミアはシェイラなど眼中にないかのように、見向きもせずにある人物に向かって進んでいた。
その人物とは、未だ殺気を放つ真っ黒な彼女。
「アネルマ」
ルミアが彼女の名前を呼ぶ。
白髪の彼女とは対照的な、真っ黒な髪は多少乱れてはいるものの美しい。
黒で統一されたウエディングドレスに身を包むアネルマの手が、ナイフを逆手に持ち替えたのを合図に二人はぶつかり合った。