櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ




 ルミアの光の魔力と、アネルマの闇の魔力がぶつかり、火花が散るように魔力のカケラたちが飛びちる。



 グロルの手当てをし続けていたアポロは、その攻防に目を奪われていた。



(何が何だか分かんないけど...すごい...)



 死の呪詛をものともしないルミアの力も



 そのルミアと張り合っているアネルマも



 唯一気がかりなのはルミアが氷の魔力を使わないこと。



 ルミアは光の魔力も使えるが主体は氷の魔力だ。



 当然主体ではない光の魔力は威力が落ちる。



 その状態でこれだけ闘えているのは流石に異常と言うべきか。



 



 しかし



 時間が経つにつれ状況が変わる。



 繰り出される蹴りや物理攻撃がもろに入るようになると、一気にアネルマの状況が悪くなり始めた。



 ガンっ!!!



「ううっ!ゲホッ...はあ、はあ」 



 蹴り飛ばされ、壁に身体を打ち付けたアネルマは、顔をしかめて激しくせき込む。



 対してルミアは無表情のまま一ミリたりと表情を変えずに、淡々と攻撃を続けていた。


 
 それはもう、過去の魔王ジンノを見ているようで。



 王族を殺そうとした敵を、情など一切かけず無慈悲に滅し続ける



 感情をなくした彼女はまさに聖者と呼ばれたオルクスの血を引く人間だった。





「ルミア...ッ!全部あんたのせいよ!あんたが全部ぶち壊したんだ!あんたさえいなければ...!」



 アネルマの恨みのこもった声が教会に響く。


  
 ルミアがいなければジンノは強さを求め続けるだけの男のまま、国のために戦う事なんてなかったのに。



 ルミアさえいなければ、シェイラは自分のものだったのに。





 一目でわかってしまった。



 ルミアがこの場に現れた時、



 シェイラの目が喜びに輝いたこと



 その中に自分が手に入れることのなかった深い愛が窺えたこと



 彼の中に居たのはいつでも、ルミアであったという事。


 



 十年前、ルミアとアネルマがまだ学生だったころ



 アネルマは確かに優秀だった。



 特殊部隊にと噂されるほどに。



 だが、実際、アネルマはけして一番にはなれなかった。



 そこには必ず、ルミアがいたから。



 当時から『バケモノ』『悪魔』などと恐れ嫌われていた為、良い噂は一切なかったが事実上勉学も実践的な戦闘においても不動の一番はルミアだった。



 だからこそアネルマは特殊部隊の入隊の話をけったのだ。



 アネルマの自尊心とプライドがそれを許さなかった。



 最初から最後までルミアに負け続けたことがそうさせた。



 


 そして、今も。



 昔と遜色ない強く美しく白い女は、座り込んだアネルマを冷めた目で見降ろしていた。



 その現状があまりにアネルマの敗北感を強くさせる。



 何故いつも勝てないのか。



 どうしていつも...この女なんかに...ッ






 アネルマはぐっと唇を噛んだ。



 

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