櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ




ルミアは一歩、アネルマに近づく。



アネルマは手に持っていた死の呪詛を込めたナイフをルミアに向かって投げ飛ばすが、ルミアは易々とそれを弾き、避ける。



そして立ち上がりかけたアネルマの体を、魔力によって力を何倍にも増幅させたその足で蹴りあげた。



容赦など微塵もない。



「かはっ......ッ」



強力なその一撃に、アネルマは吐血し、意識が飛かける。



黒いドレスはボロボロに破け、傷だらけだ。



先程の一撃で足をやられ、立ち上がることが出来ない。



そんなアネルマをよそに、ルミアは転がり落ちていたアネルマのナイフを手に取る。



それを目にし、次に彼女が何をするのか気がついたアポロは叫んだ。



「シェイラ様!!ルミを止めて!!」


「え、」


「今のルミはオルクスの意思に染まってる!アネルマがシェイラ様を襲った事で完全に敵と認識されたんだ!!こうなったら最後、敵を完全に滅するまで戦い続ける......このままじゃルミがアネルマを殺しちまう!!」



アポロはジンノやその両親リンドヴルム、シュネシファーがそうなった時のことを知っていた。



聖者オルクスとはよく言ったものだ。



オルクスとは死神という意味。



まさに聖者を名乗る死神のように



天使の羽を抱えた悪魔のように



王家の敵と認識した相手が『死ぬ』まで、彼等は戦い続けるのだ。



王家を守るためだけに。



全身が血に塗れてもけして顔色を変えない。



それが聖者オルクスである彼等の本当の姿。



今、ルミアがそうなりつつある。



「アネルマは今回の主犯じゃない!グロルに協力しただけだ!無駄な殺戮でルミに血を浴びせちゃダメだ!!」



オルクスの一族は人を滅することを、その手を血に染めることをなんとも思ってない訳じゃない。



普通の人と同じように傷つくし、同じように心を痛める。



ただ違うのは、それが遠い昔から続く意思であり本能である為に、その痛みや傷をも容易く受け止めてしまうことだ。



何ともないように笑い、心を痛めてない振りをする。



だから周りも気付かないのだ。



彼らの苦しみに。



だからこそ、アポロたち特殊部隊の騎士たちは思う。



彼らを苦しみに慣れさせてはならないと。



アポロのその言葉に、シェイラははっとしてルミアに視線を戻す。



そこで視界にうつった光景は、まさにルミアがアネルマに向かってナイフを振り下ろす瞬間。



アネルマは動かない。



シェイラは叫んだ。



ただ、一心に



美しい純白の彼女がその手を血に染めてしまわないように。






「ルミ、やめろ!!!」






< 166 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop