櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「ちわーす」
突然その場に陽気な声が響く。
声がする方へ顔を向けると、そこにはラウルを始めとした特殊部隊の面々が。
「こんちは、リーベル元・隊長」
アポロがひょこっと顔を出しながら気安く声をかける。
その後ろにはネロやイーリス、そしてキャップを目深にかぶった色黒の男リュカがいた。
「おお!お前らか!ったく生意気なガキどもめ!!
俺より陛下に挨拶せんか」
「はは、いいよ別に。相変わらずお前らは仲良いなあ」
シルベスターが言うように、特殊部隊の騎士達は特別仲がいい。
それはまるで一つの家族のように。
「あれ? アルマもいたんだ、珍しい」
普段接点がなく滅多に会うことのない補佐官アルマがこの場にいることに驚くネロ。
「ま、暇だったんでね。それにジンノさんの最愛の妹の戦いは、特殊部隊を目指している身としてはどうしても気になって」
そう。
アルマが言う通り、ここにいる誰もがそれを目的にしているのは言うまでもない。
後少しで午後の入隊試験が開始される。
アポロが窓際により、闘技場内を覗いた。
「あっ!!ルミ!!」
その声に反応し、皆の視線が一斉に闘技場へと注がれる。
そこには雪のように穢れのない白い髪を一つに結ったルミアが佇んでいる。
「おおーい、ルミーー!」
アポロがそう言って手を振ると、それに気が付いたのかルミアは振り返り満面の笑みを浮かべて手を振り返した。
右耳の真珠のような白い魔導石のイヤリングと、首元の銀のネックレスに通された深紅の魔導石で作られた指輪が、揺れてきらりと光る。
どちらもルミアにとって大切な人達からの贈り物。
指輪はジンノから
そして白いイヤリングは、ここにはいない大切な人から。
セレシェイラ・フェルダン
それが彼の名前。
きっと彼は今、自身の執務室で仕事をしている。
最後にあったのは一週間ほど前。
試験前だという事で会うのを控えるようにしたが、それまではほぼ毎日のように人目を忍んで幼いころからの二人だけの秘密の場所で会っていた。
彼は今日ここには来ない。
来ないでほしいとお願いしたから。
見られたくなかった。
戦う姿を、彼に。
他の誰にもそんなことは思わない。
彼、セレシェイラにだけにしか。