櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
魔法使いたちが生まれながらに持つ魔力には、それぞれに特徴がある。
それを魔法使いたちは匂いなど五感で感じ取れるのだ。
特殊部隊の騎士達はお互いの魔力、加えて主要な王族や貴族たち魔力はすぐにわかる
が、
先の炎
あれは見たことも感じたこともない魔力だった。
特殊部隊の騎士達の顔に疑問の色が浮かぶ。
「何だあの火、ネロでもアポロでもない、アネルマでもない。グロルやシルベスター陛下があれだけの魔力を持ってるとは思えないし...一体中で何が起こってるんだよ」
王宮前広場で残った冥界の使者たちを倒しながら、オーリングが眉を顰める。
魔力のほとんどを冥界の扉を閉じるための術式に使った二人は、今や魔力すっからかんで役に立たずに地べたに座り込んでいる。
そのプリーストン夫妻が「まさか...」と口をそろえて呟いた。
「あの子、血が目覚めたのかしら...」
「そうかもしれん。もしそうなら...あの子はどうなるんだろうか」
「何の話ですか?二人は何かを知ってるんですか!?」
何やら知ってる風なプリ―ストン夫妻。
オーリングが詰め寄ると、難しそうな顔をして二人は顔を見合わせた。
「...あの炎は、おそらくルミアのものだ」
リンドヴルムは重い口を開くと、静かにそう言う。
それを聞き、オーリングは信じられないとばかりに声を上げた。
「え!?で、でも、ルミアは氷と光を既に持ってるじゃないですか!!それに彼女は王族じゃない!!ただでさえ二種類以上の魔力を扱うのにそんなの有り得ませんよ!!!」
基本的に人が持って生まれる魔力は一種類。
ただし神の血を引く王族は全員が炎の魔力を持っており、それに付随して一族に応じた魔力を持つ。
その為に、二種類の魔力を持つとされていた。
王族以外で唯一魔力が遺伝する一族であるプリ―ストン家でも基本一つ、稀に二つの魔力を持つことがある。
だからルミアが氷と光の二つの魔力を使えることまでは納得ができるのだ。
しかしルミアは稀に、水の魔力を使うことがある。
ルミアの入隊試験の際にも使われた。
他の二つより威力や使える魔法の難易度は下がるが、それでも扱える。
その時点で彼女は異常だった。
それなのに
炎まで扱えるなど異常を通り越してふざけている。
有り得ない。
「それがなぁ、有り得なくないんだよ」
リンドヴルムは言う。
懐かしいものを思い浮かべるように、優しい顔をして。
その隣でシュネシファーが複雑そうな顔を浮かべるが、リンドヴルムがそんな彼女の肩を優しく抱いた。
そして静かに語る。
「あの子はね、
今は亡き、王族クリスタリア最後の姫の血をひく
紛れもない王族なんだ」