櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
Ⅹ*二人の約束
*
白い壁
鼻をツンとさせる薬品の匂い。
そこは王宮に併設された病棟
特別に準備された個室に、騎士たちが集まっていた。
ベットに横たわるは白髪のルミア。
固く目をつむり最早生気は無い。
魔力を供給し続けることでかろうじて生きているという状況。言ってみれば植物状態と同じだ。
その彼女が眠るベットの傍らで、冷たくなったルミアの手を握りしめたままセレシェイラがベットに伏せていた。
あの後
教会を包んだ炎が消えた後、
アポロやジンノ、シルベスター、シェイラ達は無傷のまま救出された。
ただ炎の中、唯一倒れていたのはルミアのみ。
アネルマは戦意を完全に喪失し、呆然と座り込んでいた。
それからすぐに、ルミアの治療が医療班総出で行われたが、死の呪詛を受けた上に治療が遅れた体はもうボロボロで、治療のしようがなかった。
奥の手として延命措置を行ってはいるがそれも一日二日が限界。
もうすぐその限界がやってくる。
病室の中そして外には、戦いに関わった騎士たちが暗い表情で立っていた。
その中にジンノの姿はない。
彼は今、王宮地下の牢獄に居た。
暗く肌寒いそこで、アネルマの閉じ込められた檻の前にジンノは立つ。
「...さっきからそこで何をしてんの早くあの女のところへ行きなさいよ。最後の別れぐらいして来たら?愛しい妹でしょうに」
牢屋の中で体に包帯を巻いた痛々しい姿のアネルマがため息をついた。
さっきから何も言わずにこの調子なのだ。流石にアネルマでも呆れる。
「...死ぬん、だよな......」
下を向いたままそう呟くジンノ。
きっと現実が受け止められないのだろう。
いや、受け止めたくないというのが正しいか。
「認めたくないのは分かるけど、死ぬわよ。あの子は」
「......」
「まあ、死の呪詛だけだったら、もしかしたら死ななかったかもね。あの子の魔力とこの国の医療技術で奇跡が起こったかもしれない...でも、今回は無理」
ルミアを貫いたあのナイフ
あれには二つの魔法がかけてあった。
一つは死の呪詛。
そしてもう一つ
「魔法の名前は『夢喰い』。私が造った、私だけの魔法。あれは人の夢や記憶を喰い、体の精神から人を犯すの」