櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
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「...シェイラ」
ルミアがいる病室の、ベットの傍らにいたシェイラはその声を聞き、ゆっくりと振り返る。
そこにはシルベスターが静かに立っていた。
「...酷い顔だぞ」
その言葉通り、振り向いた彼の顔は酷いものだった。
泣きはらしたのだろう、目は真っ赤に充血
瞼は腫れ、げっそりとしている。
もともとルミアがいなかった数か月でかなり痩せほそり、目に見えて不健康であった身体は、それはそれは見てられないほどにやつれ、酷くなっていた。
「何か...せめて水でも口にしたらどうだ?」
そんな事を言ってはみるが正直、何と声をかければいいのか分からない。
何もかも絶望したような表情の弟に、のこのこと生き残ってしまった自分が、何も失っていない自分が声をかけるなど。
だが自分以外声をかけれる人間もいないのだ。
「このままだと、また倒れる」
「...別にいい...」
そっけなく、無表情のままそう答えるとシェイラはルミアの眠るベットに顔を戻した。
生気のない冷たい手を自分の体温で温めるように、両手で包み込む。
「...ルミ」と何度も呟き、握りしめたその手に額を押し付けてる、
まるで祈りを捧げるように。
言っても聞かないのだろう。
シルベスターはあきらめたように一つため息をつき、シェイラとルミア二人を残して病室を後にした。
病室の外には、アポロが複雑な表情を浮かべて立っている。
アポロは最後までグロルの治療を続けていた。おかげでグロルは何とか命を取り留め、今は隔離病棟で治療を続けられている。
犯罪者が生き永らえ、国を、王を救おうとした騎士が死ぬ。
そんなことあっていいのか。
グロルではなくルミアを助けていれば、そうやってあの時の判断を後悔する自分。
同時に助けられなかった己の弱さを痛感し、力が足りなかったことを後悔する自分。
それらがアポロの中でせめぎ合う。
それでも過去は過去。
過ぎ去った時間は変えられない。
「アポロ」
「......何、」
「ルミアは、あとどれだけ持つ」
「...他人の魔力の供給による延命措置は、通常でもって一週間。ルミアの場合、死の呪詛と夢喰いと言う魔法がかけられているので、供給したそばから魔力が減っていきます。だから...もって二日、残りはあと...十八時間です」
もはや生きていると呼べる状態ではないが、あえてそう言うならば、余命は十八時間。
短すぎるその時間にシルベスターを始め、騎士たちは表情を曇らせる。
ラウルもウィズも、アイゼンたちも。
そしてシルベスターは覚悟を決めた様に顔を上げると、その場に集まっていた騎士たちに深く頭を下げた。
「残りの時間、彼らを二人きりにしてくれ。頼む」
騎士たちの視線を一身に浴びながら、シルベスターは続ける。
「勝手なことを言っているのは分かってる。だけど、彼女の最後はあいつに看取らせてくれ」
「.........」
そこに居た騎士たちは、頭を下げたシルベスターの姿をじっと見つめる。
その場に居た誰も、その言葉に異を唱えられる者は居なかった。