櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ





 柔らかい桃色に埋め尽くされた王都。



 今もなお、その色は広がり続けている。



 国全体を覆い尽くす勢いで。



「何だよこれ...サクラ...?」



 ラウルが思わず呟く。



 美しさ、可憐さ、儚さ、強さ、その全てが詰まったような花。



 平和の象徴



 そう呼ばれる理由がなんとなく分かった。







「シェイラが...命を絶とうとしてるんだ...!」



 シルベスターの声に皆が振り向く。



 涙を呑んで、窓の外の光景を見つめるシルベスター。その表情は王ではなく、シェイラの兄としてのものだった。



 伝説の子の魔力が自然界に存在する木々に反応して、咲く花、それが『サクラ』。



 魔力にあてられた木々がすべてサクラに変わる。



 王家に伝わる伝説では、神に魅入られた伝説の子がこの世界に誕生するとともにサクラは現れ、国に平和をもたらすとされている。



 そして、伝説の子が死ぬとき、まるで黄泉への旅路を照らすかのように再び現れるのだ。



 今、王都全体の木々がサクラに変わっていっているということは、シェイラがそれほどの魔力を現在進行形で放出し続けているという事。



 体内の魔力が全てなくなってしまえば魔法使いは死ぬ。



 このまま魔力を放出し続ければ、間違いなくシェイラはあと数分もしないうちに命を落とすだろう。



 だが、それが彼の意志。



 彼の選んだ道なのだ。



(ごめんな、守ってやれなくて...ごめんっ...ッ...)



 泣き崩れるシルベスター。



 彼はただ、運命に翻弄されて苦しむ弟に、幸せになってほしかっただけ。



 それだけだった。



 その姿をジンノは無表情のまま見つめる。



 ジンノだって後を追って死にたい。



 けれどジンノにはシェイラとの約束を守れなかった負い目がある。



 シェイラがルミアと共にこの世を去るというのなら、ジンノはシェイラに成り代わり、シルベスターや国を守らなければならないだろう。



 覚悟はできている。



 約束を守れなかった報いは受けるべきだ。



 だから



(せめて、最後は...ルミアを、どうか幸せにしてやってくれ...)



 そう願う。





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