櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「シェイラさん」
そう言って彼女は笑う
優しく、柔らかく
今までが嘘であったみたいに
聞き間違えではない、彼女の澄んだ声がシェイラの耳に入ってくる。
「...ルミ......?ほんと、に...」
夢なのではないのか
一度死んだはずの彼女がここに居る
腕の中で、名を呼び微笑んでくれている。
有り得ない現実に、そう錯覚してしまう。
「ごめんなさい、思いのほか時間がかかってしまって」
でも、約束したでしょう?
「貴方を残して、私は死んだりしない」
あの日
サクラの花びらと雪が舞い散る月夜の晩
ルミアは言った
『私が死ぬのは、貴方がこの世から消えたその時です』
と。
そう約束したのだ。
「だから意地でも死にません。騎士として、最後まで貴方を守ると誓いましたから」
ルミは空を見上げる。
サクラの花弁が舞い、青い空に美しく映えた。
そして、その桃色の花達に囲まれたここに、彼がいる。
最後にあった時より髪が伸びていて、より大人っぼく、かっこよくなったシェイラが。
目や鼻は赤くなり、頬には幾筋もの涙のあとが見えて。
もしかして、自分の為に泣いてくれたのかなと、都合のいい解釈をしてしまう。
彼の黄金の瞳がじっと自分を見つめるものだから、恥ずかしくなってルミアは視線をそらした。
「...綺麗なサクラですね...優しくて強い、まるで......キャッ!!」
まるでシェイラさんみたい
その言葉は突然力強く抱きしめられて言えなかった。
ただでさえ、シェイらの腕の中にいるということ自体が恥ずかしくて堪らないのに、抱き締められるなんて。心臓がドキドキと音を立てて鳴り止まない。
「シェイラ、さん?......くるし......っ」
「我慢して」
ものを言わせぬ声。
あまりに強い抱擁に思わず声を上げるも、シェイラは力を緩めなかった。
ルミアはここに居る。
間違いなく、生きている。
それを精一杯、全身で感じようと、腕に力を込める。
そしてシェイラは
声を殺して泣いた。
いつまでも、いつまでも。
生きていること、再び会えたこと、共に居れること
全てが幸せで
シェイラとルミアはその幸せをかみしめながら抱き合う。
二人を照らすフェルダンの空はどこまでも青く澄み渡っていた。