櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
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フェルダンの青空の下
ルミアとシェイラは寝転ぶ
二人とも魔力がすっからかんで動けないのだ。
ルミアは復活の魔術に膨大な量の魔力を使い、シェイラは体内の魔力のほとんどを放出してしまったから。
だけど二人の心それ以上に満たされていて。
肌を撫でる柔らかな風と、サクラの香りを全身に感じ、二人は顔を見合わせて笑った。
ふと
頬に冷たい何かを感じる。
ルミアがそっと目を開けると、青い空とサクラの花びらに交じり、白いふわふわとしたものが宙を舞っている。
それは雪、
真っ白な雪だった。
その中の一際輝く雪の粒がゆっくりとルミアの元へと降りてきて、ルミアの体に触れた瞬間、空っぽの身体に魔力が戻りはじめた。
そして気がつく。
この雪が自分の魔力で出来たものだと。
アイルドールで手放したはずの魔力がどうして戻って来たのかは分からない。
氷の魔力はあのままベリルのものになるとばかり思っていたのに。
(戻って、きてくれた......)
それまでは、ただただ大きすぎるそれを疎ましくさえ思っていたが、
いざ手放すと、その大きさとと共にこの力に支えらて生きてきたのだと知る。
今はただ純粋に、再びこの力を手にできたことを嬉しく思った。
「...シェイラさん、魔力が戻ってきました。もう私動けますから、一緒に帰りましょう」
肩を貸します
そう言って、ゆっくりと上体を起こし、シェイラの方を向いてそう言うと。
「!...ルミ、目が...!」
シェイラがそう声を上げた。
金色だったルミアの目が元の藍色の瞳に戻り始めたのだ。
それも片目だけ。
「目?目がどうかしたんですか?」
自分の変化に気が付いていなルミアは、きょとんとするだけ。
気の抜けた可愛らしいその姿を見ているとどうでもよくなってしまって。
(......まあいいか、今は。彼女がここにいてくれるだけで...)
「...いや、何でもないよ。俺も少し動けるようになったし、帰ろうか皆のいる場所に」
そう言ってシェイラは手を伸ばす。
ルミアはその手を取り、引き上げた。
「うわっ」
起き上がる拍子に、ふいに力が抜けたシェイラが膝から崩れ落ち、それを支えようとしたルミアも勢いに負け後ろに倒れる。
結果、ルミアに覆いかぶさるようになってしまったシェイラ。
鼻先が触れそうなほどに近づいた二人の距離。
(あ...)
シェイラの頬がぼっと赤くなる。
しかし、ルミアは
「シェイラさん大丈夫ですか!?け、怪我は!!」
と平気な表情で、シェイラの体を心配するだけ。
大丈夫だと言うと、今度はシェイラの腕を肩にまわし、ガッチリと腰を支えて立ち上がった。
これで大丈夫、と言わんばかりに自慢げな表情のルミアをみて、シェイラはがくりと肩を落とす。
「はぁ...ジンノの気持ちが、少しわかる気がする」
「へ?」
どんなに顔を近づけても、体を密着させてもルミアの表情は何も変わらない。
先が思いやられるなと、シェイラのため息混じりの小さなつぶやきはルミアの耳に届く事は無く、フェルダンの爽やかな風に乗って消えていった。