櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ











 ◆









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『──これにて入隊試験を終了します』




 ウィズの義務的な声と共に、試験が終わった。




「何だったんだよ...あれ...」




 観覧席に集まっていた特殊部隊の面々、そしてシルベスターをはじめ特殊部隊の入隊試験を興味本位で見に続々と集まった高位貴族たちは、試験が終わった今、口をぽかんとしたままただただ立ち尽くしていた。



 誰一人その場から動くことはない。



 興奮冷めやらぬ彼らの頭の中には、まだ先ほどまでの光景が何度も何度も繰り返されていた。










 ◆







 


 試験開始の合図と共に、闘技場は一瞬で氷で包まれ、次の瞬間にはルミアとジンノがぶつかり合っていた。



 強大な魔力と魔力がぶつかり合い、バチバチと音が鳴る。



 足を振り上げジンノを吹き飛ばした後は、休む暇なく氷で覆われた地面から何かが飛び出し、ルミアを襲う。



 それは鋭い刃を持つ金属の塊。



 その奥にはニヤリと笑うアイゼンの姿が。



 彼は魔法使いじゃない。



 世界に数人しか存在しない、何代も続く由緒ある錬金術師の一族の人間なのだ。



「...さあ、どうする。ジンノの妹」



 何枚もの氷の壁で鉄の刃を防ぐルミア。



 しかしそれは止まることなく、ルミアを追いかける。



 《魔王》と人々から恐れられるジンノと同じように、隊長アイゼンも通り名があった。



 《鬼人》アイゼン



 普段は酒が大好きでどうしようもない男でも、戦いという面において彼程の才能を持っている人間はいない。



 彼は戦うという事を楽しんでいる。



 猟奇的な心をうまれながらに持っているのだ。



 一歩間違えれば犯罪者になっていただろう。



「存分に楽しませてくれよ、俺を」



 ...いや、その笑顔は犯罪者のそれと同じだったのかもしれない。







 



「あんなの一方的だ...大体、いくら特殊部隊の入隊試験だからって女の子に対して二対一はあんまりだろう...」



「だよな、あの白髪の子も無謀だ。確かに魔力は人並み以上に持ってるみたいだけど押されっぱなしだし...戦いの経験値が違うんだ、すぐに負けるにきまってる」



 観覧席では、興味本位で見に集まって来た観客が非難の声を上げる。



 特殊部隊の騎士たちはただ黙って戦いを見つめる。



 その様子を、誰かが不満に思ったのだろう。



「お前ら何も思わないのかよ、あれはもういじめと一緒だろう。小さい女子一人に大の大人がしかも隊長と副隊長が寄ってたかって攻撃しやがって
 ...誰が相手でも勝てねえよ」



 おそらく一度入隊試験を受けたことがあるのだろう。



 その時に、鼻であしらわれたことを根に持っている事が窺われた。



 王宮や軍で働く者にはこういった人間が割と多くいるのだ。



 アポロたちが声を上げたその男を横眼で見る。



 その表情はとても冷たく、あきらかな軽蔑の視線だった。



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