櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「っ...ウィズ!!」
早く試合を終わらせろ。
そう目で訴えかける。
ウィズ自身、もう試験を続けることは困難だと判断していたのだろう。
魔導壁の外から中に入り、3人の元へと近づく。
これで試験が終わる。
皆がそう思い息をついた。
──ただ1人、ジンノを除いて。
「っ! ウィズ、アイゼン!!離れろ!!!」
ジンノが血相を変えてそう叫んだ。
しかし、これで終わりだと気を緩めていた二人は反応が遅れた。
「......っ!!? うぐぅっ!!!」
次の瞬間、光と共に膨大な魔力が三人を襲った。
強力な冷気を孕んだそれは一瞬にしてウィズ以外の二人を凍らせる。
最初に放たれた光は光属性の魔法。
唯一何かの前触れを察知していたジンノは、それの影響で闇属性魔法を完全に封じられ、身を守る術を奪われていた。
瞬間冷却状態になった二人
白い息を吐きながら呆然と立つウィズ
そして
「ふぅ......うまくいった?」
雪煙の中から、白髪を揺らしながら現れたのは
ルミア
口元に滲む血をぺろりとすくう。
笑みを浮かべる彼女に、それを見ていた者は皆言葉を失った。
鉄槍の先にはまだ、確かにルミアの体がある。
状況を理解出来ないものがほとんどだった。
そんな観客達の混乱をよそに、試験の終了を知らせるベルが鳴る。
「ウィズさんっ」
深い藍色の瞳をランランと輝かせ、呆然とするウィズにルミアが詰め寄る。
「今のベル!」
「......あ、ああ。はい、試験終了です」
「やった!!」
ガッツポーズをとりながらルミアは喜ぶ。
それと同時に、闘技場を覆っていた分厚い氷が粉雪となってキラキラと消えていく。
その中に立つ晴れ晴れとした顔のルミアはとても美しかった。
ジンノとアイゼンの氷もサラサラと消えていく。
初めは状況が飲み込めず呆然と立っていた二人だったが、すぐに我に返り自分達が負けたことを自覚する。
「ああぁ~~負けたの!?俺達...」
「そうみたいだな、はあ...ぬかった」
「いえーい!勝ったぁー」
子供のようにはしゃぐルミアを、大の大人が肩を落として見上げる。
しかし、ジンノやアイゼンの表情は愛おしいものでも見るかのようにとても柔らかかった。