櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◇
王都唯一の魔法学校
その裏庭
人の目につかないそこには、一本のサクラの木がある。
その木の下を背に、彼は立っていた。
金髪と茶髪が織り交ざった癖のある髪が風にさらりとなびく。
「シェイラさんっ」
その声に反応し、こちらに向けられる、国王シルベスターとおなじ、黄金の瞳。
髪の隙間からのぞく黒曜のイヤリングが太陽の光を受けてきらりと光る。
「ルミ......」
目を細め、とろける様な甘い笑顔を向けてくれる彼。
久しぶりにそれを自分に向けられ、ルミアの心はドキリと大きく音を立てた。
セレシェイラ・フェルダン
この王国の第二王子でありながら
八年もの間姿を隠して生きてきた謎多き王子。
彼は数百年に一度の逸材だった。
生まれながらに神に愛され、この世に存在するすべての魔法を操る力を持つ伝説の子。
その魔力はサクラの花を咲かせる事ができた。
そんな国に平和をもたらす彼を人々は《真の王》と呼び奉ったのだ。
しかし、数多の魔法を使えると言うことはとても不安定で大きなリスクを伴う事だった。
心の優しいシェイラは人々を傷つけることを恐れ、魔力を内に内にと硬い殻の中に閉じ込めてしまうようになっていった。
無意識に魔法を使わなくなった為に人々から《偽りの王》と呼ばれるようになったシェイラ。
出来損ないの王子と周りから蔑んだ目で見られる日々が続く。
そんな中、二人はこの場所で出会ったのだ。
共に心に傷を負った二人は互いに惹かれあい、毎日のようにこの場所で約束を交わした。
また明日もここで会おうと。
幼い二人の秘密の逢瀬は、ルミアが殺人鬼に狙われ、一度この世界を去ることとなったその直前まで続いた。
そして、再びこの世界に帰って来てからも。
入隊試験が終わったその日の夕方。
もう日が沈みかけており、その場がオレンジ色に染まっている。
試験で負った傷の治療を完ぺきに終わらせてからじゃないと帰らせないとジンノが言い張ったために、約束の時間より予想以上に遅れてしまった。
久しぶりに会えるというのに、遅れた自分が悔やまれる。
「ごめんなさい、待ちましたよね」
「そんなことないよ」
申し訳なさそうに言うルミアに、シェイラは優しく微笑む。