櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ





「シェイラさん?」



ルミアに声をかけられハッとする。



「大丈夫ですか?」と心配そうな顔をして自分をのぞき込む彼女をシェイラは、思わず抱きしめていた。



「えっ!? シェイラさんっ??」



「ごめん...しばらく、このままで」



脳内を占める辛い過去の記憶。



あの時ほど、生きることが辛いと思ったことはない。



目の前に映る景色がすべて色褪せていく。



モノクロの世界の中でようやく気づいた。



彼女がシェイラの生きる世界を彩っていた事に。



彼女のいない世界がいかにつまらないかということに。



後を追って死ねたらどんなに楽だったか。



でも、暗示をかけるように頭の中でリプレイされる『生きて』という彼女の声が、それをさせない。



辛かった。



彼女のいない世界で、生きることが、なによりも辛かった。






今日



約束の時間になっても現れないルミアを待っている間



シェイラの心は不安でいっぱいだった。



何度も何度もエンマを呼んでは、ルミアの様子を聞き、心を落ち着けた。



それでも、あの日のことが頭をよぎる。



もしかしたら、何かあったのかもしれない。



危険な目に遭っているのかもしれない。



また、いなくなってしまう。



大丈夫だと分かっていても、そう思わずには入れなかった。



今、彼女は自分の腕の中にいる。



紫陽のように深い藍色の大きな瞳で自分を見てる。



(大丈夫......ルミは、ここにいる)



生きている。



それを実感したい一心で、彼女に回す腕に力を込める。



苦しいかもしれない。



でも、それくらい我慢して欲しい。



俺はその何倍もくるしかった。



君がいない日々は言葉にできないくらい苦しかった。



「......っ...ルミ、ルミ...ルミ......」



繰り返しその名を呼ぶ。



それに答えるように、ルミアが白く細い腕をシェイラの背に回し、安心させるように優しく撫ぜた。



私はちゃんと、ここにいる。



そう伝えてくれているようで、シェイラはただ静かに彼女の存在を全身で感じていた。





< 27 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop