櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「シェイラさん?」
ルミアに声をかけられハッとする。
「大丈夫ですか?」と心配そうな顔をして自分をのぞき込む彼女をシェイラは、思わず抱きしめていた。
「えっ!? シェイラさんっ??」
「ごめん...しばらく、このままで」
脳内を占める辛い過去の記憶。
あの時ほど、生きることが辛いと思ったことはない。
目の前に映る景色がすべて色褪せていく。
モノクロの世界の中でようやく気づいた。
彼女がシェイラの生きる世界を彩っていた事に。
彼女のいない世界がいかにつまらないかということに。
後を追って死ねたらどんなに楽だったか。
でも、暗示をかけるように頭の中でリプレイされる『生きて』という彼女の声が、それをさせない。
辛かった。
彼女のいない世界で、生きることが、なによりも辛かった。
今日
約束の時間になっても現れないルミアを待っている間
シェイラの心は不安でいっぱいだった。
何度も何度もエンマを呼んでは、ルミアの様子を聞き、心を落ち着けた。
それでも、あの日のことが頭をよぎる。
もしかしたら、何かあったのかもしれない。
危険な目に遭っているのかもしれない。
また、いなくなってしまう。
大丈夫だと分かっていても、そう思わずには入れなかった。
今、彼女は自分の腕の中にいる。
紫陽のように深い藍色の大きな瞳で自分を見てる。
(大丈夫......ルミは、ここにいる)
生きている。
それを実感したい一心で、彼女に回す腕に力を込める。
苦しいかもしれない。
でも、それくらい我慢して欲しい。
俺はその何倍もくるしかった。
君がいない日々は言葉にできないくらい苦しかった。
「......っ...ルミ、ルミ...ルミ......」
繰り返しその名を呼ぶ。
それに答えるように、ルミアが白く細い腕をシェイラの背に回し、安心させるように優しく撫ぜた。
私はちゃんと、ここにいる。
そう伝えてくれているようで、シェイラはただ静かに彼女の存在を全身で感じていた。