櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ











夜も老け、空に眩い星星が浮かぶ。



空気の澄んだ美しいフェルダンの夜空。



ルミアとシェイラは、サクラの木の下に座り、それを見上げた。



数日ぶりの二人きりの時間を満喫する。



特に会話はなくても、二人の心はただ傍にいるだけで充分に満たされていた。



ふと、シェイラが思い出したように声を上げる。



「そう言えばルミ
入隊試験は、どうだった?」



試験を見に来ないで欲しいと言われていたシェイラは、若干不満に思ったものの律儀に見には行かなかった。



「試験試合には勝ちました。多分大丈夫だろうって兄さんのお墨付きももらってるから、きっと受かると思います」



「そうか......良かったね」



「はいっ!」



とても嬉しそうに笑顔をむけるルミア。



シェイラもそれに笑顔で返す。



本当はルミアが危険な目に遭うであろうことは何一つやって欲しくない。



ルミアが強いことは知っている。



立派な騎士になりたいと言う思いも理解しているつもりだ。



でも、それでも、ルミアが傷つくことはやめて欲しいと言う思いが、心のどこかにある。



それと同時に、ルミアの目がジンノの背中を追っているように思えてならなかった。



強く気高いジンノ。



弱い自分とは何もかもが違う。



 それは完全な嫉妬だった。



黒い感情がシェイラの中で徐々に存在を大きくしていく。



 けれどそんな姿は見せたくなくて。



 必死に平気なふりをしてきた。



 もちろん、今も。



 月明かりに照らされ、ルミアの右耳に着けられた、シェイラが送ったイヤリングが淡く光る。



「......ねえ、ルミ?」



 シェイラの優しい声がルミに尋ねる。



「もしも...もしも、だよ。君にとても大切な人がいたとする
 ただ、誰にでも思う“大切”じゃない。他の何にも変え難い自分にとって命よりも大事な、一番...大切な人」



 ルミアはまだ話の見えてこないそれに、ただ耳を傾けた。



「その大切な人が危険に巻き込まれるかもしれないという事を、君は知ってしまったんだ
 その運命から救うには、君はその人から離れなければならない
 互いに信頼してきたそれを裏切り、誰よりも大切なその人から嫌われなければならない
 でも、本心は離れたくないんだ...大好きだから、いつまでも誰よりも傍にいたいと強く望んでいた」



 独り言のようなそれは、たんたんと続けられる。



「大切なその人を守るために、突き放しその信頼を裏切り、傷つけ嫌われるのか。それとも、最後まで一緒に戦い、運命に抗い共に生きる努力をするのか
 ...だけどその場合は、その人を自ら危険な場所に引きずり込むことになる」



 突きつけられる二つの選択肢。



「ルミなら...どちらを選ぶ?」



 黄金色の瞳がルミに向けられた。



 

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