櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ





「私なら......」



ルミアの長いまつげが伏せられる。



「もし、その大切な人が望んでくれるのなら、私は共に戦うと思います。一番傍にいて、その人を私が命をかけて守ってみせます
その為の強さだと思っていますから」



ふと、ルミアが子供の頃に言っていたことを思い出す。



強大すぎる力を持って生まれたために、誰からも愛されずに育ったルミア。



力を使うことを恐れながらも、騎士になることを諦めなかったのは、ある考えが根底にあったから。



『守る為には力がいる
その力を、私は持ってる』



持つものと持たざるもの。



人々が必ず、その二つに分類されるとするならば。



持って生まれてきた者にはやらなければならないことが必ずある。



だから、自分はこの力を使い、戦う道を選ぶのだと、戦い守ることで人の役に立ちたいのだとルミアは言う。



(強いな......)



この答えで大丈夫なのかと不安げな目で自分を見つめる強い少女。



(俺は、君のように強くなれるだろうか......)



シェイラはその白く柔らかい髪に触れ、そっと梳くように手を動かす。



絡まることなくサラサラと流れ落ちる白い髪。



それを見ながらシェイラは思う。



自分の選ぼうとしている道は、正しいのか。



「......俺は、大切な人がいる」



「うん」



「その人が大事にしているものを俺は守りたいんだ」



不安そうに揺れるシェイラの瞳。



その横顔をルミアは黙って見守る。



シェイラは優しい。



少し優しすぎるくらいだ。



だから、魔法を使うことをためらい、理不尽に責め立てられても何も言い返せなかった。



そんなシェイラが、今、誰かの為に戦おうとしている。



やはり彼は、人の上に立つべき存在。



王族の人間なのだ。



そして自分は、彼のために戦う騎士。



葛藤を繰り返すシェイラ。



ルミアはその彼の頬にそっと手を伸ばし、触れた。



「ルミ...?」



「シェイラさん、思うように生きてください
貴方には、貴方にしか出来ない事がある」



力強く目を見て言い聞かせる。



「大丈夫。私はどんな事があっても、貴方の見方ですから。何があってもシェイラさんを信じてます」



シェイラの黄金の瞳が見開かれる。



「シェイラさんはこの国の王子、そして、私は貴方の騎士です......いつまでも」



それぞれ生きる道は違う。



けれど、ルミアのやるべき事はひとつだけ。



「貴方は、私が必ず守ります」



「ルミ......」



シェイラの目に力が宿り始める。



「ルミ、ありがとう」



そう言って、シェイラはルミアを抱きしめた。



頭を抱え込むようにしてルミアの白髪に顔を埋める。



幸せな時間。



それを肌で感じながら、その表情は確かな覚悟が浮かんでいた。






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