櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◇
王宮から、軍の兵舎へとつながる道を二人の人影が足早に過ぎていく。
石畳を軽快に鳴らす足音。
それは迷うこと無く特殊部隊の闘技場へと向かっていた。
俯き、黙り込むルミア。
「..................」
シルベスターの部屋を出てからずっとこの調子だ。
ジンノはその手をしっかりと握り締め、前だけを見て歩く。
多方、ルミアを悩ませているのはシルベスターが最後に放った、セレシェイラの婚約話だろう。
国外追放で傷つくような弱い妹じゃない。
力の抜けた、小さな手を力強く握り、ジンノは独り言のように話す。
「あいつは王族だ、政略結婚など日常のように行われてる...俺達が口出しできるようなことじゃない」
そんなこと、分かってる。
ただ、悲しかっただけ。
つい先日まで傍にいた人が急に離れていく様な寂しさに似た
モヤモヤとした変な感覚。
なんだか釈然としない。
未だにシルベスターの言った言葉が上手く呑み込めないでいる、自分がいた。
「八年の静寂を自ら壊して、表の世界に出てきたんだ。何かしらの覚悟をもって来たんだろう
俺たちは騎士だ。アイツらの邪魔はしちゃいけない...認めてやれ」
珍しくジンノが、毛嫌いしていたシェイラの肩を持つような発言をすると、ルミアが不機嫌そうに言い返す。
「兄さんに言われなくても分かってる!関係ないでしょ!」
「だったら!!」
ルミアが言い返した途端、ジンノが声を荒げ立ち止まった。
ルミアはびくりと肩を揺らし、目を瞠る。
そこには何故か、苦しそうに顔をゆがめたジンノがいた。
両手でルミアの顔を挟み、顔を近づける。
「分かっているなら、もうそんな顔をするなよ!」
「兄さん...」
「ルミア、よく聞け。俺達はすぐにこの国を出なきゃいけない。どうしてこうなったのかまだ状況も把握できていない今、分かっているのは、これから先俺達二人で生きていかないといけないということだけだ」
(...そうだった)
すっかりそのことを忘れていたルミア。
ジンノの真剣な声で目が覚める。
「ごめん...なさい」
我に返り、申し訳なさそうにルミアは謝った。
それを聞くと、ジンノはふっと笑い、頬を挟んだ手で、さらに柔らかい頬をぎゅっと挟み込む。
「むうぅ~~~」
困り顔のままそんな風にされ、上手く声も出せず変な顔のまま兄を見上げた。
ジンノも思わず声を上げて笑ってしまう。
「ははっ、可愛いなルミア
...別に怒ってはないから謝らなくていい、二人で生きるのに心配もしてないしな
ただ不安そうな暗い顔はしないでくれ...頼む」
まっすぐに先だけを見据えている強い兄を見つめ、ルミアも歯を食いしばる。
「ごめん兄さん。もう大丈夫だから、行こう」
「ああ」
やはり、プリ―ストンの人間は強い。
ジンノの後を追い、ルミアはまた歩みを進める。
心の奥隅に、不可解なモヤモヤを抱えたまま...