櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◇
二人が出ていくと同時に、闘技場を殺気に満ちた幾種もの魔力が充満し始めた。
魔導壁がキシキシと音を鳴らし、今にも壊れそう。
「許さねえ、あのバカ貴族ども......!!」
最早、涙の跡など消え失せ、怒りを全身で顕にするアポロ。
オーリングも、必死に怒りを抑えようと心掛けているが、抑えきれないそれが外部に影響を与え、外は嵐になっていた。
「落ち着け二人とも...とくにオーリィ」
アイゼンが二人を諫める。
しかし当のアイゼンもイライラしている為、これもまた医師に止められていた煙草を取り出し吸い始めた。
めいいっぱい吸い込み、勢いよく吐き出す。
「ふううぅ...イライラしててもしょうがねえんだ
お前ら会議に出席したんだろう。何があったのか説明しろ」
アポロとオーリング
この二人は貴族。それも、王族分家の人間。
その為、今朝の会議に参加していたのだ。
四大分家のうち王家に最も近い血縁のプロテネス家、その当主オーリング・プロテネス。
そして、第三位の血縁のヘリオダス家、その当主アポロ・ヘリオダス。
若き当主でありながら、その強さとヒトを操るセンスは誰もが認めるほど。
国民からの支持も厚い二人は特殊部隊に入隊していることもあって、高位貴族の大臣達から毛嫌いされていた。
もちろん二人も、権力ばかりに固執する大臣たちを心底嫌いっていたが。
今回の会議は予定外のものだった。
朝から呼び出された二人は滅多にしない正装に身を包み大議事堂へと向かった。
「あのバカどもはいつもと変わらずろくな話はしなかったが、唯一あの男だけ言動がおかしかった」
「あの男?誰だそれは」
オーリングの台詞にラウルが反応する。
「あいつだよ。フィンスの当主」
四大分家最後の一族、フィンステルニス、その当主。
名はグロル・フィンステルニス。
「アイツが言い出したんだ、ジンノ副隊長とルミの国外追放をね」
グロルは普段から無口で、自分から意見するような事はほとんどない。
いつもただ、騒がしい大臣たちを傍観いているだけ。
珍しいグロルの発現に、始めこそ大臣たちは騒然としたが、ルミアの入隊試験を目にした者も多く、すぐにその話に乗り始めた。
ジンノやルミアだけじゃなく他の特殊部隊のメンバーも同様に国外追放にした方がいいという意見も出たが、それは国王シルベスターが許さなかった。
けれど、オーリングやアポロがどんなに意見しようと、大臣たちの勢いは止まらず過半数でグロルの意見が通されることになってしまったのだった。