櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「でも、目的は特殊部隊の戦力の削減だろ?国自体を脅かさない程度の力しか与えないようにそうしたなら、その対象がジンノとルミアに限定されたのはどうしてだ?」
ウィズが最もな意見を言う。
確かにそうだ。
ジンノとルミアを切らなくても、他のメンバーを切れば力の均衡は取れる。
わざわざ、この国を幾多の危機から守ってきたジンノやこの国に戻ってきてから目立って王族を見を呈して守ったルミアを切る必要はない。
特にジンノは《魔王》というその名だけで、充分な国の盾になっていた。
それを失うと言う事の意味は、国王をはじめ常識ある人間であれば容易く理解できるはず。
内側から攻めいられると言う大臣達が危惧している事柄よりも、何倍もの高確率で隣国から狙われる可能性が上がってしまうだろう。
メリットなど、どこにも無いはず。
「それに関しては恐らく、あいつら二人の家の問題があるんだろう」
その言葉に、皆がアイゼンへと視線を向ける。
「家って......プリーストン家のこと?
別に特に名のある貴族でもないし、何か問題があったとしてもそんなこと、あのバカ貴族どもが知ってるわけ無いじゃん」
アポロの意見に他のメンバーも頷く。
同時に、オーリングの頭には、あることが思い浮かんだ。
それは記憶の無いルミアを覚醒させようと、ジンノと闘技場に集まった時のこと。
『プリーストン家の人間に与えられたもう一つの名は───────』
(聖者...オルクス......)
神の子孫と言われる王家フェルダンに、代々仕える影の一族の名。
どんな相手だろうと、王族を守るためであれば容赦なくその手を血に染める
本能がそうさせるのだ
ただ純粋に愛するものを守る天使にも、残虐の限りを尽くす悪魔にもなりきれない
悪魔の体に天使の羽を湛えた家紋を掲げる
醜く、けれど美しい一族。
それが、何か関係していると言うのか。
だが、これはオーリングも最近まで知らなかった事実。
他の貴族たちが知るわけがない。
「お前ら、オルクスの一族の事は知っているだろう?あいつらプリーストンの人間は、その血族だ」
「ええっ!」
「本当ですか!?」
案の定、皆が驚きで目を丸くする。
《オルクス》という名は特殊部隊に入隊した者であれば、誰もが知っている有名な一族の名。
フェルダンの特殊部隊において、最強と呼び声高い一族。
しかしその正体は不明で、ただその名だけが語り継がれていた。
身近にいた彼らがその一族の人間だったことに驚きを隠せないアポロ達。
さらにアイゼンはオーリングも知らぬ事実を告げる。
「その名だけでも知る者は数少ないが、オルクス一族が貴族であることを知る者は限りなくゼロに等しい」
「貴族...?」
「ああ、王族に限りなく近い、力を持った貴族だ。公にはされていないがな」
アイゼンがそれを知ったのは、十年以上前、ジンノが特殊部隊に喧嘩を売ったあの日だった。