櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
闘技場でジンノが暴れていた時。
観覧席には人だかりができていた。
この日は特殊部隊の入隊試験も予定されていた。
当時は特殊部隊の入隊試験を受けることに関して、今ほど仕切りが高くなかったため、多くの魔法使いが名乗りを上げていた。
その魔法使い達が、何事かと集まっていたのだ。
そんな人だかりの中にズンズンと歩みを進める一人の幼い少女。
ルミアである。
ルミアは観覧席に集まる人垣をものともせず押しのけ、窓際まで進み出る。
そしてその中の様子を見ると、すぐに踵を返し闘技場の入口へと向かった。
後から聞いた話だと、この時ルミアは、てっきりジンノが大勢の大人の魔法使いに一方的に攻められていると勘違いしたらしい。
ジンノ自ら、喧嘩を売ってきたことも知らずに。
闘技場内に人がいる場合、その入口は魔力通さぬ分厚い魔導癖の扉で厳重に閉ざされている。
そして、それを開けることができるのは、特殊部隊の騎士と必ず魔力を持つ王族、そして、その《オルクスの一族》だけだった。
魔力と言うものは遺伝子のように、人それぞれ、一つとして同じものはない。
だが、魔力を遺伝できる、王族や《オルクス》は限りなく似通った魔力を発している。
その魔力に扉が反応し、開閉が行われるのだ。
ルミアはその扉の前に立ちそれを開けようと試みた。
が、開け方を知らない為か、なかなか開く事ができない。
その光景を見て流石に分かったのだろう、ルミアが激しい戦闘の繰り広げられる闘技場の中に入ろうとしていることを。
『君っ、止めないか!中は戦場だぞっ!』
『大体、この扉は君のような平民の子供に開けられる代物ではない!』
『そこをどきなさい!』
大人が口々に止めろと叫ぶ。
挙句、それでも止めようとしないルミアを大人達は無理やり扉から引き剥がそうと強行手段に出ようとした。
魔法を使おうとしたのだ。
しかし、この時ルミアは怒りで理性を欠いていた。
その為自分に向かって魔法を使おうとしている大人たちをジンノを虐めている特殊部隊の騎士と同じ人間だと思い込んでしまった。
そこからの記憶は曖昧だとその場に居合わせた皆がいう。
当たり前だ。
ルミアの魔法で一瞬にして氷漬けにされていたのだから。