櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
ルミアは魔力の溢れ出たその体で扉に触れる。
その途端、扉が開いた。
扉にはプリーストンの、《オルクス》の家紋が浮かぶ。
しかしそれを目視できるものはその場におらず、唯一、扉付近に立っていたアイゼンだけが開く扉に浮き上がったそれを見たのだ。
そしてその奥から進み出る少女の姿を。
アイゼンは眼を剥いた。
その魔力の強さに。
アイゼンたち錬金術師は、特殊部隊の代が変わっても必ず一人は隊の中に居なければならない。
それがどうしてかは分からないが、おそらくずっと昔からそうしていた、特殊部隊と共に歴史を刻む伝統ある一族だった。
だから知っていた。
その扉の仕組みも、その家紋の意味も。
これが、聖者《オルクス》かと。
そして特殊部隊は幼い少年少女の喧嘩に、負けたのだった。
勘違いのせいで、特殊部隊の入隊試験受験者を氷漬けにし、兄の喧嘩を加勢してしまったことを後から知り、それを恥じたルミアはあまりそれを語りたがらなくなったが、その日の出来事は騎士の間で語り継がれることになる。
「表の世界では、プリーストンを名乗り平民の祭祀の一家として生きているが、その実態は王族の次に権力を持つ貴族。と言っても、それを知るのは王族の当主などのごく一部の貴族だけで、議会や政治に参加することは一切ない」
オーリングやアポロがそれを知らないのは二人がそれぞれの一族の当主になった背景が原因だと、アイゼンは言う。
二人は互いに未だ未解決の、王族暗殺事件の各一族たった一人の生き残り。
故に何も知らないまま当主にならざるを得なかったのだ。
知らなくて当然と言えるだろう。
「......だが分からないな。ジンノやルミアが仮に力のある貴族だとして、普段から平民として生きるメリットが何処にある?......いやむしろ、平民だったプリーストンを王族に次ぐ地位を持つ貴族にのし上がらせた、その理由はなんだ」
確かに、ウィズの言う通りだ。
「俺もそれがどうも納得出来ない。...が、今その意図を知ることをできない
問題は今現在、そのプリーストンの当主が存在していない事だ」
「当主というと...二人の両親ですか?」
二人の両親。
彼らはジンノが特殊部隊と喧嘩騒動を起こした当時の副隊長だった。
その強さはやはり折り紙付きで、今考えると血の繋がりをはっきりと感じさせる。
だが、当時は既に特殊部隊の騎士として活躍していた二人は喧嘩騒動の時も国外に任務に出ており、その上特殊部隊の騎士は扉に触れずとも闘技場に入れたので家紋が一緒だと確認することも出来なかった。
アイゼンが親子だと知ったのは、ジンノが正式に入隊するとなった時、正しい名を知った時だった。
しかし、その時にはもう、ジンノ達の両親は姿を消していた。