櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「っ......」
グロルは苦しそうに顔を歪め、青ざめている。
喉を圧迫されたことによる息苦しさと、同時に放たれていたジンノの魔力に当てられてのことだった。
回廊全体を満たす黒い魔力。
二人から離れだ場所にいるオーリングさえも震え上がらせるそれは、グロルの襟元を掴むジンノの手が解かれると同時に冷気となって姿を消す。
「ゲホッ!...ゴホッ、ゴホッ......ハァハァ」
ようやく開放され、床に座り込んで苦しそうに咳き込み肩を上下する。
その姿を見下ろし、ジンノは満足そうに微笑む。
つくづく悪魔のような男だ。
しかし、この容赦のなさが効いたのか、勧誘してきた時の余裕の表情はもうどこにもない。
それを目にし、ジンノは満足げに微笑む。
「俺の相手をしたけりゃ、それなりの覚悟を持って来い」
グロルに背を向けたジンノは、最後に振り向きざまに冷たく言い放つ。
「お前らが考えているほど、この国は簡単じゃない」
「......ふん。貴様お気に入りの特殊部隊がいるからか?」
「...まあ、それもあるがな」
グロルを見つめるジンノ。
その口元に笑みを浮かべたまま、彼は続ける。
「この国に立つ王を、王家“フェルダン”をなめないほうがいい。お前らとは格が違う」
「......!?」
はじめて、言葉にすることのない怒りのような感情をグロルが発した。
しかし、尚もジンノは止まらない。
「もう一度言う。この国の王は、フェルダンだ。それは今も昔も変わらない.........勿論、これから先も」
覚えておけ。
そう言い残し、ジンノは歩き出す。
グロルをその場に置いて。
ゆっくりと回廊を上がっていく。
上がった先にはオーリングが。
このままでは盗み聞きしていたことがバレてしまう。
それに気づき、オーリングは思わず身を隠した。
が、
「......おい、オーリング。何隠れてやがる、行くぞ」
「あ、はい......」
当然のようにバレていて、オーリングは苦笑いを浮かべながらもジンノの後を追っていった。