櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ











外の景色が徐々に赤から黒に染まり始めた頃



皆に別れの挨拶をして回っていたルミアは、早々と姿を見せ始めたきらびやかな星をぼんやりと眺めていた。



キラキラと輝く宝石のような星達。



「きれい......」



思わずそう口に出してしまう。



傍らには、立派な一本の角が印象的なユニコーンのノア寄り添うようにして立っていた。



器用に頭を擦り付け、甘えるノア。



ルミアもそれに答えるように優しくノアを撫ぜる。



「もう......行くのか?」



不安げなその声に、笑いながら「うん」と返す。



皆心配しすぎだとルミアは思うのだが、それがどこか嬉しくてくすぐったくて



国外追放という重いワードがなんだか軽く聞こえてまう。



最初は不安だらけだったのに、今では何ともない。



自分でもびっくりだ。



「私はついて行くからな、どこまでも」



空色の目が真っ直ぐにルミアへと向けられる。



(ノアの瞳も、いつもキレイ......)



 この国には美しいものが多すぎる。



 その全てが眩しくて



 目を逸らしたくなるほどに輝かしく



 そして、尊い。



 ノアに優しく触れながら、ルミアは思う。



 自分たちの先祖、遥か昔の《オルクス》と呼ばれた人達は、きっと、この世界に降り立った《神》だけでなく、この地とこの地に住まう人々全てを愛したのではないかと。



 守りたい。



 素直にそう思うのだ。



 自分の中に確かに流れる《オルクス》の血。



 これが無意識のそう訴えているのだろう。



手放したくない。



この美しく尊いもの全て。



ルミアは目を閉じる。



その先に見えるのは黄金の瞳の彼。



何度も約束を交わし、二人で秘密の逢瀬を繰り返した。



まだ、別れの言葉もかわせずにいる彼。



(シェイラさん......)



やはり最後に、もう一度会いたい。



例え、明日には婚約してしまうとしても、今ならまだ間に合う。



自分の心を救ってくれた唯一無二の友に、最後の言葉を。



「ノア、シェイラさんのいる場所に連れて行って」



ルミアのその声に、ノアは小さくて頷いた。





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