櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◇
外の景色が徐々に赤から黒に染まり始めた頃
皆に別れの挨拶をして回っていたルミアは、早々と姿を見せ始めたきらびやかな星をぼんやりと眺めていた。
キラキラと輝く宝石のような星達。
「きれい......」
思わずそう口に出してしまう。
傍らには、立派な一本の角が印象的なユニコーンのノア寄り添うようにして立っていた。
器用に頭を擦り付け、甘えるノア。
ルミアもそれに答えるように優しくノアを撫ぜる。
「もう......行くのか?」
不安げなその声に、笑いながら「うん」と返す。
皆心配しすぎだとルミアは思うのだが、それがどこか嬉しくてくすぐったくて
国外追放という重いワードがなんだか軽く聞こえてまう。
最初は不安だらけだったのに、今では何ともない。
自分でもびっくりだ。
「私はついて行くからな、どこまでも」
空色の目が真っ直ぐにルミアへと向けられる。
(ノアの瞳も、いつもキレイ......)
この国には美しいものが多すぎる。
その全てが眩しくて
目を逸らしたくなるほどに輝かしく
そして、尊い。
ノアに優しく触れながら、ルミアは思う。
自分たちの先祖、遥か昔の《オルクス》と呼ばれた人達は、きっと、この世界に降り立った《神》だけでなく、この地とこの地に住まう人々全てを愛したのではないかと。
守りたい。
素直にそう思うのだ。
自分の中に確かに流れる《オルクス》の血。
これが無意識のそう訴えているのだろう。
手放したくない。
この美しく尊いもの全て。
ルミアは目を閉じる。
その先に見えるのは黄金の瞳の彼。
何度も約束を交わし、二人で秘密の逢瀬を繰り返した。
まだ、別れの言葉もかわせずにいる彼。
(シェイラさん......)
やはり最後に、もう一度会いたい。
例え、明日には婚約してしまうとしても、今ならまだ間に合う。
自分の心を救ってくれた唯一無二の友に、最後の言葉を。
「ノア、シェイラさんのいる場所に連れて行って」
ルミアのその声に、ノアは小さくて頷いた。