櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ




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(どうして泣くの...私、泣くような立場じゃないじゃない)



 ひとしきり泣くと、頬を濡らす涙を拭って顔を上げる。



 しかし、親しげに寄り添う二人の姿を見た瞬間に、ふたたびジワリと涙が込み上げてしまう。



「ルミ...」



 隣に立つノアの心配げな声にルミアは答えるように、涙を再度拭って顔を上げた。



「大丈夫...私は騎士だから、ただの友達だから。泣いちゃいけない」



 唇をかんで胸の痛みを抑え、ルミアの想いをのせた六花蝶を夜空に放つ。



(ちゃんと伝えてね、頼むよ)



 そう願って。





 六花蝶が夜の闇へと消えたのを確認すると、ルミアはすぐに踵を返す。


 
 少しでも、二人の幸せそうな姿を見ないで済むように。



 胸の痛みから逃れるように。



 顔を伏せて足早にこの場を立ち去ろうとする。



「行こうノア。兄さんが待ってる」



「...ああ」



 いつになく弱々しいルミアの背中を、ノアは慰めるようにそっと押す。



「.........ありがとう」



 すん、と鼻を鳴らしながらルミアは小さくそう呟いた。








 














(............!)



弾かれたように顔をあげ、椅子から立ち上がる。



おもむろに動き出した足は、まっすぐに窓の外に向かっていた。



「シェイラ様どうされましたの?」



そう声をかけられて、はっと我に返る。



「いや......少し、風を当たりたくて」



そんな風に言い訳をしながらも、歩みは止めない。



ゆっくりと大きな窓を開き、バルコニーへと足を進める。



そこには星の瞬く美しい夜空が広がっていた。



だが、そんなことは今シェイラにとってはどうでも良かった。



(............ルミ?)



名を呼ばれた気がした。



根拠なんて何もない。



だけど、そんな気がしたのだ。



そんな筈ないのに。



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