櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
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(どうして泣くの...私、泣くような立場じゃないじゃない)
ひとしきり泣くと、頬を濡らす涙を拭って顔を上げる。
しかし、親しげに寄り添う二人の姿を見た瞬間に、ふたたびジワリと涙が込み上げてしまう。
「ルミ...」
隣に立つノアの心配げな声にルミアは答えるように、涙を再度拭って顔を上げた。
「大丈夫...私は騎士だから、ただの友達だから。泣いちゃいけない」
唇をかんで胸の痛みを抑え、ルミアの想いをのせた六花蝶を夜空に放つ。
(ちゃんと伝えてね、頼むよ)
そう願って。
六花蝶が夜の闇へと消えたのを確認すると、ルミアはすぐに踵を返す。
少しでも、二人の幸せそうな姿を見ないで済むように。
胸の痛みから逃れるように。
顔を伏せて足早にこの場を立ち去ろうとする。
「行こうノア。兄さんが待ってる」
「...ああ」
いつになく弱々しいルミアの背中を、ノアは慰めるようにそっと押す。
「.........ありがとう」
すん、と鼻を鳴らしながらルミアは小さくそう呟いた。
◆
(............!)
弾かれたように顔をあげ、椅子から立ち上がる。
おもむろに動き出した足は、まっすぐに窓の外に向かっていた。
「シェイラ様どうされましたの?」
そう声をかけられて、はっと我に返る。
「いや......少し、風を当たりたくて」
そんな風に言い訳をしながらも、歩みは止めない。
ゆっくりと大きな窓を開き、バルコニーへと足を進める。
そこには星の瞬く美しい夜空が広がっていた。
だが、そんなことは今シェイラにとってはどうでも良かった。
(............ルミ?)
名を呼ばれた気がした。
根拠なんて何もない。
だけど、そんな気がしたのだ。
そんな筈ないのに。