櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ














フェルダン=ルシャ王都の大正門。



午後11時



ルミアとジンノはここに集まることになっていた。



身なりを長旅用の身軽なものに着替え急いで向かうと、既にジンノが荷物を抱えて待っている。



「ごめんなさい兄さんっ、遅れた?」



ノアから降り、急いでそう尋ねるとジンノは、サングラス越しにだが穏やかな笑みを浮かべ、「いや、俺が早く来すぎただけだ。時間通りだよ」と言った。



ノアはジンノに向かい深いお辞儀をする。



鼻先を優しく撫でるジンノ。



「お前も来るのか?」



「はい、何と言われようと。お供致します」



「......そうか」



言っても聞かないだろうと思ったのだろう。



苦笑い浮かべながらもジンノは頷き、大正門へと歩き始めた。



ルミアもノアを引き連れ、黙ったままその後をついていく。



とうとう出ていくんだ。



そう思うとやはり悲しくなる。



いろんな人の顔が思い浮かんで、その人達にもう会えないのかと思うとどうしようもなく苦しくなるのだ。



(シェイラさん......)



振り返るとその彼がいる、フェルダンのお城が見える。



(どうか、ご無事で......)



心の中で最後にそう願い、ルミアは前を向く。



もう、振り返らない。



今この国を出ていくまでにやるべきことは全てやった。



次は、これからやるべき事を考えなければ。



この国のために。



王家フェルダンを守るために。







正門には、門番も兼ねた衛兵が何人か在中することになっている。



しかし、普段表に出ているのはそのうちの数名で、大半は交代待ちと緊急事態に備え正門横の官舎にいることが多い。



今晩もそうだと確信していた。



しかし、正門の前に立ったジンノとルミアはいつもと違うその様子に目を丸くした。



「お前ら......」



「敬礼!!」



驚くのも無理ない。



ジンノ達の視線の先には、号令と共にジンノたちに向かって敬礼をとる兵士たちがずらりと並んでいたのだから。





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