櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
特殊部隊の皆を始めとした軍に仕える兵士たちが、全員この場に集まっているのではないかと疑うくらい。
勿論、補佐官のアルマやエルヴィス、元隊長のリーベルもいる。
そこに立つ者は誰もが純粋に心から敬意を払っていた。
アイゼンがジンノの前に進み出る。
「あんたら馬鹿か。こんなことやってる暇があるなら鍛錬でもしてろよ」
「まあそう言うなジンノ。みんなお前らとの別れが辛いんだ」
アイゼンが呆れるジンノの肩をバンバン叩いて笑う。
しかし、すぐにアイゼンから笑みが消え、急に真面目な顔に変わった。
普段見せることのないその表情にジンノは目を瞠る。
「...ジンノ、俺はお前はこの国に必要な人材だと思っている。もちろんルミアもだ。二人なくしてこのフェルダンの特殊部隊は成り立たない」
その一言を皮切りに、敬礼する兵士たちの中からも似たような声が次々と上がる。
それは皆、共に戦場に立ちその強さを目の当たりにしたり、命を救われたりした者たち。
ジンノという名の最強の騎士を誰よりも間近で見てきた者達だった。
「ジンノさん、行かないで下さいよっ」
「副隊長がいなくなって、どうしたらいいんですか」
「官僚たちは戦場でのジンノさんの働きを知らないだけです!」
「ジンノ副隊長が今までどれだけこの国の窮地を救ってきたと思ってんだ!」
「許さねえアイツら!!」
「あの地位と権力だけしか興味のない能無しの馬鹿ども!!」
「.........おいおい、後半悪口になってるぞ。その辺にしとけお前ら」
呆れながらも少しだけ嬉しそうなジンノを横目に見ながら、ルミアは微笑む。
「兄さん、愛されてるね」
「...うるさい」
「照れてるーー」
「......ルミア、怒るぞ?」
「フフッ、ごめんなさぁい」
照れるジンノが珍しく、冷やかし結局睨まれるルミア。
しかしそんなやり取りも嬉しくて、ルミアはついつい表情が緩んでしまう。
「まあとにかく、お前らの国外追放はここにいる誰も納得してない。俺は何が何でもお前たちを引き戻すぞ、どうやってでも。それでまた一緒に酒飲もう。もちろんルミアも一緒に。」
俺はそれまで禁酒だ。
腕を組み胸を張ってそういうアイゼンを、ジンノは口元に笑みを浮かべて見つめ返す。
「あんたは無理だよ、禁酒。
そう言って今まで一度でも達成できたことあったかよ」
「するんだ俺は。本気だぞ」
「おーおーそうかい、精々頑張れよ」
そしてジンノとアイゼンは握手を交わす。
ルミアは横で、その二人を見つめる。
もう、言葉はいらなかった。
兵士たちの想いを背負って繋がれたアイゼンの手は力強く、やっぱり隊長なんだなあと実感した。