櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「敬礼!!」
再び、大きな掛け声とともにその場にいる全員が敬礼を取る。
ジンノは荷物を抱えなおし、門の方へと歩き出した。
ルミアもノアと共にその頼もしい背中を追う。
ちょうど大正門を抜ける手前。
そこに、兵士たちとは違う三人の人影があった。
それは見覚えのある特殊部隊の隊員。
イーリス、リュカ、オーリング
その三人だった。
あきらかに他の皆と服装が違う。
今から旅をしますといったような、身軽で動きやすそうな格好。
まさか
ルミアがそう思った時には既に遅く、
「俺とリュカは二人について行きます」
案の定、イーリスがそう言った。
驚くジンノとルミア。
「何言ってる、お前らは残れ
騎士ならやるべきことは分かっているはずだ」
騎士であれば、一度忠誠を誓った相手に生涯尽くすのが当たり前であり、それこそが騎士道だ。
特殊部隊の騎士は隊に入隊する際に、王家フェルダンに忠誠を誓う。
つまりジンノは二人に、暗にこの国に残れと言っていると言うわけである。
しかし、穏やかな笑みを浮かべたままのイーリスは意見を変える気はない。
「ええ分かってます。この国に尽くすべきだと言うことは。だが、俺は元々この国に忠誠を誓ったわけじゃない。ジンノさん、そしてルミに忠誠を誓ったんです。その二人がこの国を出るというなら俺に考える余地はない。この話が出た当初からそう決めていました」
「俺もイーリスに同意
お前らのいないこの国に俺がいてやる義理もねえ」
イーリス、リュカそしてジンノとルミア
この四人の関係を知らないものたちはイーリスやリュカの言い分はよく理解出来ないだろう。
だが、アイゼンはそれを知っている。
二人が感謝してもしきれないくらい、プリーストンの兄妹に大恩を抱いているということを。
だからこそ、アイゼンに二人を止めることはできない。
『これから先、お前らは自らの信じる正義の為に進め。誰もお前らを止めはしない。何があろうと俺達はフェルダンの騎士だ。信じたものに忠誠を誓い、思いのままに戦え』
闘技場で特殊部隊に言った一言が二人をその決断に至らせた。
何も間違ってはいない。
呆れるジンノは大きくため息をつく。
二人は頑固なのだ。ジンノがいくら説得を試みようと頷かないのは目に見えていた。
「......オーリング、お前までついてくるなんて言わねぇよな」
怪訝な表情でそう問いかける。
「本心はついて行きたいよ。でも、俺は行かない。ジンノさんの代わりにここで守らないといけないものがあるから」
二人のことはイーリスとリュカに任せたよ
オーリングはそう言って笑った。