櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
全てを覗かれている。
素直にそう感じた。
心を許しあった仲だからこそ、自分の中に渦巻く負の感情や思いを全て、余す所なく見られている気がするのだ。
今だって。
赤茶の瞳はネロの黒い瞳を真っ直ぐにとらえる。
耐えきらずに逸らすのだが、それでもなお追うように彼の視線を感じるのだ。
(これ以上この場にいてはダメだ)
身体がそう警告音を鳴らす。
ネロはその場から逃げ出すように、早足にアポロの横を通り過ぎた。
しかし
「ネロ」
その声に身体は勝手に立ち止まってしまう。
振り向くことはできない。
もう一度あの瞳に見つめられたら何もかも吐いてしまいそうな気がするから。
助けてくれと縋ってしまいたくなるから。
黙ったまま固まるネロに、アポロは言葉を続ける。
「俺はさ、俺以外の人間を誰も信用してない
それはお前が一番よく知ってるよな」
「...ああ」
「だけど、特殊部隊の人間は別だ。何があっても最後まで信じ切る、そう決めてる」
幼い頃からその姿を見てきた。
騎士である誇りと、己の信じるものを守るためだけに生きる特殊部隊の騎士だからこそ、それだけの厚い信頼を寄せられる。
「なあ、ネロ...
お前は特殊部隊の騎士だよな?」
背中に投げかけられるその問いは今のネロにはあまりにも重かった。
ネロは苦しみに眉を歪め唇を噛み締める。
そして、ようやく開いたその口から絞り出すような声で
「...そうだよ。俺は、特殊部隊の騎士だ」
それだけ答え、静かにその場を立ち去った。
「ネロ...」
ぼそりとその名を呟く。
残されたアポロの目は、哀しみに濡れていた。