櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◇
一方その頃、王都を出発した一行は月明かりに照らされた夜道をゆっくりとした足取りで歩いていた。
ノアの背にルミアが乗り、その前後をジンノ、イーリス、リュカが固めるようにして歩く。
自分だけが楽はできないとルミアも一緒に歩こうとしたのだが、何故だか全員に止められた。
今日は長く歩くからと一山越えることになるからと言われ、納得出来ないもののしぶしぶこの状態に落ち着いているというわけである。
それにしても
「何でみんなそんなにピリピリしてるの?」
ルミアは思わず声に出して尋ねた。
どうも王都を出てから三人がそれぞれにピリピリとしている。
一言も言葉を発しないし、喧嘩するような人たちでもない。
「別にそんなことないだろ?いつも何が違う
ルミアの勘違いじゃないのか?」
先頭を歩くジンノが振り返りながらなんともないふうに答えるがのだが
「しらばっくれないで。そんなんで妹の目を欺けるとでも?」
ぎろりと睨みつけながらジンノに突っかかった。
その時
キシッ
微かな木々のこすれる音がした。
そして
ルミアの身体を
大きな杭が、貫いていた。
「あ、」
ルミアの口からゴプリと鮮血が溢れる。
「!!?」
「ルミっ!!」
途端に三人の顔から血の気が引いた。青ざめる三人の視線がルミアから杭の放たれた方へと向く。
怒りの表情を浮かべ魔法を放とうとした、まさにその瞬間。
三人の目線の先で小さな閃光が走った。
そして
「ゔゔっ......」という小さなうめき声と共にドサッと何かが下に落ちる音が。
直後に何者かの地面の砂をけるジャリっとした足音こちらに向かって足音徐々に大きくなっていく。
一体闇の向こうで何が起こっているのか。
困惑する三人の元に、月明かりに照らされて姿を現したのは
まぎれもなく
杭で打たれたはずのルミアだった。