櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
ルミアの最も得意とする魔法。
それはいわゆる『変わり身』と呼ばれるもので
魔力を練って自分ソックリに作った義体と素早く入れ替わり自分の身を守る方法としてよく知られている。
使える魔法の属性によって多少の違いはあるものの、大抵の魔法使いであれば使える簡単な術だ。
しかし義体の精度や入れ替わりのスピードなどが上手く行かず術を使う前に見破られてしまうことが多いため、戦闘においてこれを使う魔法使いは滅多にいない。
しかし、ルミアは例外だった。
ルミアは初めてその魔法を目にした時、一目惚れしたのだ。
確かそれを彼女の前でやって見せたのはジンノだったか。
戦闘に不向きだと知りながらも、その美しさにそれに秘められた可能性に惹かれた。
それからというもの、ルミアは試行錯誤を重ねた。
様々な文献を読み漁り、過去に作られた様々な魔法を調べ上げ、魔法を一から作り上げる技術までも身につけてしまった。
そしてルミアは、訓練の一環として行っていたジンノとの練習試合の最中、わざと技を受けて瞬時に義体と入れ替わり、ジンノを騙そうとするようになった。
元からあったその魔法に修整を重ね、より本体に近い義体を、より素早く、ジンノの目に触れないように入れ替われるか、そして入れ替わったあともどれだけ義体と気付かせないかを追求したのだ。
その結果ルミアは独自の方法を身につけた。
きっと他の誰にも真似出来ない、新たな魔法を生み出したと言っても過言ではない。
それはルミアの入隊試験の際も行われ、
今も、ジンノたちの目を欺いた。
ドサッと音を立てて三人の前に放り出されたのは、力なく横たわる黒装束の男。
言葉なく呆然とするイーリスとリュカ、呆れたように頭を抱えため息をつくジンノを、ルミアは憤慨した様子で腕を組みながら睨みつける。
「私だって、自分の身ぐらい自分で守れる
この人は誰?私の知らないことをみんなは知ってるでしょ?これから長く一緒にいなきゃいけないって言うのに早速隠し事?そういうの本当に大っ嫌い」
警戒網を張り巡らせていた三人の気を話しかけることで緩ませ、敵にわざと自分を狙わせた。
そして敵の位置を把握した後、自らの手で仕留めてしまったのだ。
(まったく......)
ジンノは自分の愛しい妹の相変わらずの無鉄砲さに頭を抱えながらも、誰よりも頼もしいその姿に柔らかい笑みを浮かべていた。