櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
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ルシャ王都から少し離れた隣町の小さな民宿
そこにジンノ達一行は宿を取った。
小さな部屋であるためベッドを椅子替わりに向かい合って座る。何故かリュカだけは窓際に。
どうしてこんな真夜中にわざわざ宿を探して、狭いにもかかわらず一つの部屋に大の大人四人が密集しているかというと、
「で、どういうことなの。ちゃんと説明して」
状況を一人把握出来ていないルミアに説明する為。
把握出来ていないというよりは、故意にルミアには教えていなかっただけなのだが。
ルミアは頭がいい。自分に伝えられていないという事に何かしら意味や理由があると分かっている。
だからこそ、自分にかかるリスクを承知で詰め寄っているのだ。
自分を守ることぐらいできると、先に証明した上で。
しかし、やはりジンノとしては教えたくないのが本音。だからついつい苛立ってしまう。
「分かったよ、今から説明するから。そうカリカリするな」
「兄さんが私に黙ってたからでしょう?また隠し事してたら、今度は許さないから。一生口聞いてやんない」
「悪かったって、そんなに怒るなよ馬鹿」
「馬鹿ぁ!?」
「あ...悪い口が滑った」
ナチュラルに悪口が飛び出てしまい兄妹げんかが勃発しかける。とても頑固な似た者同士の喧嘩は実に面倒くさい。
にも関わらず、それを微笑ましく見つめるイーリス。
同じく、こちらを向いてはいないがやり取りを聞いていたのだろう、口元に小さく笑を浮かばせるリュカ。
二人は幼い頃のジンノ達を知っている。
だからこそついつい笑ってしまうのだ。昔のようで。
「だいたいなあ、お前いい加減あの魔法を俺の前で使うのやめろ!いちいち心臓に悪いわバカ」
「バカバカうるさい馬鹿!兄さんいっつも気づいてるじゃない、私兄さんを完全にだませるまで続けるって決めてるの!」
「ったくいつまでったてもガキ!」
「うるさい分からず屋!!」
「はいはいそこまで。話がずれてきてるよ二人とも」
エスカレートし始めた兄妹喧嘩をイーリスが仲裁に入る。
「あの頃から全く変わってないんだね」
「...まったくだ。ガキかてめえら」
イーリスとリュカの声に不満そうにしながらも、ようやく落ち着いたジンノがしぶしぶ説明をし始めた。