櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「いいか?お前も薄々感づいているだろうが、今回裏で動いているのはフィンス家だ」
フィンステルニス一族
当主グロルを筆頭に君臨する、王族四大分家の一つ
「グロルの...やつの目的はまだ分からないが、この国を乗っ取ろうとしている事は確か。おそらく計画は随分前から始まっていたと思う」
フェルダン王国の四大分家
王族のフェルダン一族から血縁が近い順に
オーリングを当主とする《プロテネス》
今はなき《クリスタリア》
アポロを当主とする《ヘリオダス》
そして最後に
《フィンステルニス》
この四つの一族は何白年も前から権力を求め何度もいさかいを繰り返してきたという。
しかし、前国王、シルベスターとセレシェイラの父親が国王だった時代、その抗争は比較的に落ち着いていた。
それは当時のプロテネス一族とクリスタリア一族の当主が権力に全くと言っていいほど無関心だったことが大きな要因だったと考えられる。
この二つの一族は国民にも非常に慕われていたのだが、ヘリオダスとフィンスの両一族は違った。
機会を伺いつつ、どうにかして両一族を蹴落とせないかと画策していたのだ。
当時ヘリオダス家の次男だったアポロはそんな両親に嫌気がさし、政界とは真逆の軍事に興味を持つようになったのだが。
そして、それまで大人しくしていたフィンス家が動き出したのが今から約28年前。
分家の中でも二番目に地位と権力を持っていた《クリスタリア》の暗殺事件が勃発した。
力を持ってはいたものの、権力争いに全くの無関心だったクリスタリア一族。
男性が跡継ぎとしても重要視される中で、唯一女性を当主とし他の一族と比べても女性の割合が大きく、戦うということを好まなかったこの一族は、突然の襲撃によりその全ての人間が暗殺され、呆気なく壊滅したのだ。
それから三年後、つまり今から25年前。
続いてオーリングの一族《プロテネス》の暗殺事件が起きた。
当時まだ生まれて間もなかったオーリングは命からがら母のおかげて生き延びたが、そのほかの人間は前回と同じように襲撃と闇討ちで一人残らず暗殺された。
この危機的な状況に国民たちは嘆き、それ故に祈った
《神の子》の誕生を。
それから数ヶ月と経たずに誕生したのが、国に幸運のサクラをもたらした王子セレシェイラ。
それから今までが嘘のように戦争などの国同士の争いも一族同士のつぶしあいもなくなり、近年稀に見るほど平和な日々が続いた。
一人生き残った為に命を狙われる危険性のあったオーリングは生まれたばかりのセレシェイラと共に育てられたおかげか、それからも命を狙われることなくすくすくと育ちやがてセレシェイラを心から慕うようになっていく。
時を同じくして、フェルダンで後に名を轟かせることになる伝説の騎士ジンノもこの年に生まれていた。