櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ




それから約十年間



セレシェイラの力故か、それまでが嘘のような平和な日々が続いた。



しかしそのセレシェイラが実は魔法の使えない出来損ないの王族だという不穏な噂が広まり始めたのを皮切りに、不幸な事が立て続けに起き始める。



隣国間の戦争の再過激化



それに伴う特殊部隊の騎士達の大惨事



そして王都が震撼した幼い子供を狙った殺人事件



極めつけが三つ目の分家《ヘリオダス》の暗殺事件。



この事件で、自分を守る術をもっていたアポロを除くヘリオダスの全ての人間が亡くなった。



この直後にセレシェイラは突然の病死と偽って身を隠し、それと入れ替わるようにルミアを亡くしたばかりのジンノが特殊部隊の騎士として名を轟かせるようになった。



 それと同時にフィンステルニス一族の確固たる地位が確立されたのだった。



 今では王宮で働く大臣や高位貴族のほとんどがフィンス家の人間だ。




「28年前のプロテネス家暗殺事件、25年前のクリスタリア家暗殺事件、そして八年前のヘリオダス家暗殺事件...この三つの事件の犯人はいまだ発見されていない。だが答えは明らかだ」



「フィンス家の...グロルの仕業ね」



「ああそうだ。だがそれを証明する証拠がない」



 そう



 状況的には完全にフィンス家の画策だと誰もが分かるほどに明白。



 しかし、過去にそれを証明できたためしがないのだ。



「昔からあの男は何を考えているか分からなかったが、ここまで用意周到となると手の打ちようもない」



「実際のところ決め手となる証拠が出ていないのが現状だしね」



 イーリスもジンノの言葉に賛同するように頷く。



 二人がこういうのだからグロルは余程入念な計画を立てているのだろう。



 そしてそんな彼が次に狙うのは...



「王家フェルダン、つまり現国王シルベスターとその弟セレシェイラの命に違いないだろうな
もう既に何度か襲われているみたいだが」



 セレシェイラはついこの間フィンス家の第一補佐官に、シルベスターに関してはもう二度も命を狙われた。



 それこそルミアやジンノ、オーリングのおかげで何とか未遂に終わっていたが、守る人間が減ってしまった今いつ狙われてもおかしくない。



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