櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「今回の国外追放の一番の目的は、ルミアお前の排除だと考えている。俺やイーリスやリュカはただのオプションにすぎん」
この世界に数多存在する魔力
その中で最強と謳われる《闇》の魔力
それに唯一対抗できる魔力が《光》とされている
では何故《光》が最強と言われないのか。
それは基本的な使用手段が怪我に対する治癒であり、攻撃に値しない魔法がほとんどだからだ。
《闇》に対しいくら耐性を持っていたところで攻撃に変えられる力がなければ戦闘において驚異になることはない。
だから彼ら《闇》を扱う魔法使いが最強であるとされてしまうのだ。
特殊部隊の騎士の中でただ一人《光》の魔力を扱えたアポロも、得意とするものは治癒魔法ばかりで攻撃と呼べる魔法は数少ない。それもそのはず、それが《光》の本質なのだから。
アポロは王族の人間。《光》が使い物にならなくとも《火》属性の魔力も使うことが出来る。
特殊部隊と名乗る以上、《火》の魔力を使用し仲間に引けを取らないぐらいの強さは持ち合わせているだろうが、魔力の性質を考えても恐れるに足らなかった。
おそらくフィンス家の人間たちも安心していたのだろう。
だから、ここぞとばかりシルベスターやセレシェイラを狙った。
ルミア・プリーストンという騎士の存在を知らぬまま。
「あの時、グロルの第二補佐官ユーベルがセレシェイラを狙った事件でルミアが放った魔法は国全体を覆った。当然、グロルの目にも止まったはずた。ルミアの完璧なコントロール能力、魔力の強大さ、そして何よりあの魔法の存在がグロルを追い込んだんだ」
攻撃性が皆無の《光》属性の魔法。その中でも《闇》にとって脅威となる魔法は存在する。
《闇》の魔力そのものを滅する力だ。
しかしこの類いの魔法は扱いが非常に難しく、とてつもなく魔力を消費してしまう。間違えれば術者本人が死んでしまうほどに危険と隣り合わせの魔法なのだ。
それ故に一部では禁忌の魔法の一つとさえ言われている。
それをルミアはいとも容易く、それが当然のように発動させ、そして完璧にコントロールした。
驚きを隠せなかったに違いない。
自分もその魔法の中にいたのだから。
結果、あの魔法を直接浴びた主犯のユーベルは闇の魔力が完全に浄化され、生きるためのほんの僅かな魔力しか体内に残っておらず、もう二度と魔法を扱うことはできない体になった。
生憎、グロルは実質的に危害を加えていなかった為にルミアの魔法を当てられることはなかったが、それでもフィンス家に長く仕えそれまでも数々の極秘任務を確実にこなしてきたユーベルの敗北は、身震いするほどの脅威を感じさせるのに十分に違いなかった。