櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「だから、国の乗っ取りに邪魔な私を追放したのね」
「ああ。ルミアに俺たちがついて行くことも計算のうち。そうやって、ついでに自分たちに対抗できる力を削る算段だったんだろうな」
ジンノの的確な分析を聞きながら、ルミアは頷く。
確かにそう考えれば、あのグロルらしからぬ突然の発言も理解できる。
イーリスも獣傷のついた頬に手を添えながら考える素振りを示す。
「それにしても、グロルは国を乗っ取って何をしようとしているんだ。ただ王位を奪い取るだけで終わるような男じゃないだろ?」
「そんなこと俺が知るか。知りたくもない
俺たちはもう国を出ちまったんだ。国で何が起きようとそれを知るすべも、手段も失った。どうしようもねえよ」
面倒くさそうに考えることを放棄するジンノを、ルミアは横目でじっと見つめる。
「なによ兄さん。そこまで考えてるんならここから先の計画も立ててるんでしょ?話してよ」
「そんなもん立ててない。国が俺たちを捨てたんだ。今更救ってやる義理もねえ。適当に旅するだけだ」
力が抜けたようにぼふっと音を立てながらジンノは腰掛けていたベッドに横たわる。
それを見るルミアの濃紺の瞳は冷たい。
その冷めた視線から逃れるようにジンノは顔を背けた。
(ヘタクソ...)
目をそらして、一度だけ固く瞼を閉じる。
そして絶対に目を合わせないんだ。
その動作をいったいどれだけ見てきたことか。
「兄さん、知ってるでしょ?嘘つくのすっごく下手だって」
「............」
「私がいなかったこの何年かでもっと下手になったんじゃない?兄さんを知らない人達を騙すならともかく、ここにいるのは私達よ?家族も同然の私達を騙せるなんて思い上がらないで」
黙りこくるジンノに畳み掛けるようにそういうと、不機嫌そうに「............チッ」と舌打ちをして寝返りを打つ。
そのようすは反抗期のひねくれた子供と至極冷静な親のようだ。
「観念しなジンノ。いくらなんでもルミの前では嘘ついたってバレバレだよ。ただでさえ下手くそなのに、気が緩んでダダ漏れ状態だから」
「学習したほうがいいなジンノ。」
イーリスやリュカにまでそんなふうに言われてしまう始末。
「うっせ............」
ジンノは眉間にシワを寄せてそう呟くのだった。