櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
次の日の朝。
(ん......まぶし......)
朝日が上ると同時にルミアは目を覚ます。
うーんと背伸びをしながら辺りを見回すと、リュカが幹にもたれかかり肩を上下させて眠っていた。
イーリスやジンノの姿は見当たらない。
大方、食料の調達にでも行っているのだろう。
後方ではノアが首をむくりともたげ、眠そうに目を瞬いている。
「おはよう、ノア」
「ああ。おはよう」
「静かにね。リュカまだ寝てるから。ギリギリまで寝かせてあげよう」
そう言ってルミアはリュカへと近づき、そうっと普段はキャップで隠れている彼の顔をのぞき込んだ。
幼い頃、共に過ごした時のように穏やかな寝顔を浮かべている。
年齢はルミよりも年上だが、ルミアは彼を弟分のように思ってきた。
イーリスは二人目の兄と言ったところだろう。
彼ら四人は幼いころの数年間を共に暮らした。ルミアにとってみれば親よりも家族同然の存在だった。
ルミアがいなくなって、ジンノが特殊部隊に正式入隊後に行った再編成でジンノ自身が特殊部隊に二人を勧誘したと聞いている。
だが、当時の二人はルミアたちとは違い戦闘とは無縁の生活をしていたはず。
だからルミアからすると、二人がこうやってジンノ達と一緒に戦いに身を置いていることが意外なのだ。
(かーわいー...寝顔あどけない)
昔と変わらない褐色肌の頬を指でつつき、遊ぶルミア。
「...ルミア、何やってんの」
「あ、起きちゃった?おはよう」
頬をつつく手をいつの間にやら起きていたリュカの骨ばった男らしい手が掴む。
「だってリュカの寝顔可愛いんだもん」
「可愛いって......馬鹿なこと言ってると怒るよ」
「怒ることないじゃない、ホントの事なのに。まったく...変なとことで兄さんに似てきたよねリュカもイーリスも」
「誰が変だって?」
「げ」
低い声と共に背筋に寒気が走る。
振り向くと、食料調達から帰ったジンノが口元をひきつらせて真上から見下ろしていた。
「お、おはよう、兄さん」
ついつい上ずってしまう声。
この後プリ―ストン兄弟の小さな朝喧嘩が勃発したのは言うまでもない。