櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ





「いたた...」


「大丈夫?ルミ」


「...平気ぃ。イーリスも気をつけてたほうがいいよ、兄さんのコメカミぐりぐり攻撃半端ないから」


「聞こえてんぞ、ルミア」


「...地獄耳の性悪アニキ」


「ああ?やんのか」


「あー怖い怖い」



ジンノが用意した朝食を四人で食べながら、そんな話をする。



もはや最近では日常だ。



喧嘩するほど仲がいいなどと言うが、この言葉をこれ程体現している兄妹はそうそういないだろう。



イーリスが「まったく、仲がいいな」と言って笑うと、ジンノとルミアは不愉快そうに顔を歪めてそっぽを向く。



(ほんと、似た者同士、頑固なうえ不器用だなあ...)



特にジンノに関しては。



お互いがお互いのことを誰よりも失い難い尊きものと考え、一方が傷つけば誰よりも悲しみ、自らを、自らの弱さを呪う。



二度と失うまいとする心ゆえに『力』に固執した。



無事だと知った時は誰よりも泣き、この上なく愛しげなものを見るかのように優しい瞳で見つめる。



兄妹、いや、それ以上の信頼と絆を持つ二人。



喧嘩すらも二人の仲が良好な証拠。



実に微笑ましい限りである。



しかし



(少し異様にも思える...アポロもそうだったが)



血を分けた兄弟として?



友や仲間として?



ルミアに対する思いの矛先が少し分からなくなることがある。



それでも



「そろそろ出発しようか」



ジンノの声と共にルミアは動く。



その動きにつられるように、イーリス、リュカ、そしてノアもまた立ち上がるのだ。



< 72 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop