櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「いたた...」
「大丈夫?ルミ」
「...平気ぃ。イーリスも気をつけてたほうがいいよ、兄さんのコメカミぐりぐり攻撃半端ないから」
「聞こえてんぞ、ルミア」
「...地獄耳の性悪アニキ」
「ああ?やんのか」
「あー怖い怖い」
ジンノが用意した朝食を四人で食べながら、そんな話をする。
もはや最近では日常だ。
喧嘩するほど仲がいいなどと言うが、この言葉をこれ程体現している兄妹はそうそういないだろう。
イーリスが「まったく、仲がいいな」と言って笑うと、ジンノとルミアは不愉快そうに顔を歪めてそっぽを向く。
(ほんと、似た者同士、頑固なうえ不器用だなあ...)
特にジンノに関しては。
お互いがお互いのことを誰よりも失い難い尊きものと考え、一方が傷つけば誰よりも悲しみ、自らを、自らの弱さを呪う。
二度と失うまいとする心ゆえに『力』に固執した。
無事だと知った時は誰よりも泣き、この上なく愛しげなものを見るかのように優しい瞳で見つめる。
兄妹、いや、それ以上の信頼と絆を持つ二人。
喧嘩すらも二人の仲が良好な証拠。
実に微笑ましい限りである。
しかし
(少し異様にも思える...アポロもそうだったが)
血を分けた兄弟として?
友や仲間として?
ルミアに対する思いの矛先が少し分からなくなることがある。
それでも
「そろそろ出発しようか」
ジンノの声と共にルミアは動く。
その動きにつられるように、イーリス、リュカ、そしてノアもまた立ち上がるのだ。